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04-23


  
 
 ―――…マジで肩が脱臼する三秒前。
 

 次いでに手が滑るっ…、雨のせいで手摺の摩擦が少ないせいかっ。楠本の手首を掴む手も滑って、どうしょうもない事態だ。

 
「だからっ…言っただろ。落ちるってっ、どうしてくれるんだ。楠本。入院確定だぞっ」



 悪態をつく余裕もなくなってきた。
 本当に肩が死ぬ、死ぬ、しぬっ。二人分の人間を支えるために持てる力の限り、この状態を保つが既に限界は近い。「楠本」お前、どうにか体を振って下の踊り場に着地できないかと案を出す。どうにかもがいたら飛び移れそうな距離だ。蓮はさっさと飛び移ってくれと訴えた。そうすれば片方の肩の痛みは消えるのだから。
 
 しかし、そう簡単に従ってくれないのは楠本。
 
 「蓮っ」テメェ、何様だ、恩を売ろうって魂胆か? 同じく肩の痛みに耐えながら毒づいてくる。
 下を一瞥した蓮は、蹴り飛ばしたくなる言い草だと舌打ち。いいからさっさとやれ、荒々しく告げた。このままだと二人とも落ちて入院だと苦言する。


「俺っ、終わらせたいっつったけど。ンな終わらせ方…、望んじゃねえんだよ。助かったら、相手してやっからっ、さっさと飛び移れ。グズグズすん…っ、滑る」


 ガクンと体が大きく揺れる。

 嗚呼、マジで限界。肩がやばい、死んでる、死亡してる。
 こめかみに伝う止め処ない雨粒と共に流れる汗、痛みを通り越して目の前がホワイトアウトしそうだと蓮は弱音を漏らす。比較的蓮よりも余裕のある楠本は、痛みに堪えながら下の踊り場を一瞥した後、向こうの路地裏にも目を向ける。

 目を眇めて一思案した楠本は諦めに近い、せせら笑いを浮かべた。

「蓮、今回はお前の勝ちにしてやっとく。あくまでこの喧嘩の勝ちとやらは、お前達に譲ってやるさ。俺の判断の甘さもあったしな」

「くすもっ…、何言って」

「だけどな、お前は俺を止められなかった。それに関しちゃ、俺の勝ちだ。そうさ、誰も俺を止められない。俺を止められるのは、あの人だけ」

 知ってっか?
 野良っつーのは、認めた相手に対しては忠誠心が高いけど、それ以外には敵意しか抱かないんだぜ。俺はあの人にいつまでも忠誠心を向ける、向けてやるさ。あの人が俺を不要だと思っても、俺はあの人をいつまでも舎弟として慕い続ける。
 俺にとっての兄貴はあの人しかいないんだ。リーダーもあの人以外認めない。浅倉がリーダーなんて認めない。浅倉の下に集っている奴等なんざ絶対に認めるもんか。
 
 蓮、俺はお前を憎み続けてやる。いつまでも憎み続けてやる。
 サキさんを奪ったお前を許すつもりもないし、心開くつもりも、助けてもらうつもりもない。こんな終わらせ方、望んじゃない? そんなのお前の都合で私情、俺の知ったことか。
 



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