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04-20


  
 「お前。化け物かよ」絶対人間じゃないだろ、思わず本音をぽろり。

 「ッハ」伊達に舎兄に評価されていたわけじゃない、楠本は口角をつり上げた。


 次の瞬間、爪先の方角を変えて駆け出す楠本。
 逃げるのかと思いきや、「しまった!」蓮は慌てて後を追う。楠本はスタンガンを取りに向かったのだ。こんな雨の日にスタンガンを使われでもしたら、感電死するではないか!

 本気で殺される。
 畏怖の念を抱きながら蓮は楠本に「少年院に行きたいのかよ!」と声音を張る。

 リーチの差でそれを拾い上げた楠本は、「馬鹿だな」スタンガンじゃ人は死なないんだぜ、とご丁寧に教えてくれた。


「スタンガンは高電圧かつ低電流。ショックや痛みは与えることができても、死ぬ心配はねぇよ。濡れていてもそれは同様だ」


 だから安心して食らえ、と言って放電するスタンガンを向けてくるが冗談ではない。
 「もうごめんだ!」通電された時の痛みを思い出し、蓮はお前が食らってみろと舌を鳴らす。「それこそ冗談」言うや否や、素早くそれを押し付け来ようとする。俊敏に避けながら、「馬鹿!」また避けながら、「拳で!」もう一度避けながら、「勝負しろって!」喧嘩のあり方を訴える。

 無論、相手に通用するわけがない。
 分かってはいたが良心に訴えてみたくなったのだ。当然、鼻で笑われるだけの結果で終わってしまったが。
 
 
「スタンガンに頼るほどの非力じゃないだろ、お前! 化け物染みた打たれ強さを持っておいてっ…、最強か!」

「残念、ただの野良不良だ。俺は負けるわけにはいかねぇんだよっ、サキさんのためにも!」


 顔面にスタンガンを向けられ、ギリギリで避ける。
 
 怖ぇからまじで。痛いのはもうごめんだと蓮はスタンガンの威力に鳥肌を立たせつつ、押し付けてこようとする動作には隙があることに気付く。此方にスタンガンを押し付けようとする度、腕を伸ばし、また腕を引っ込める。
 
 だったら腕を伸ばした瞬間に避けてっ、「この!」蓮はスタンガンの持った手を避けて小手を払う。
 小手を狙われたら人間は反射的に物を手放す。化け物染みた楠本も、この手には有効だったようだ。容易くスタンガンを手放してくれる。それでもまだ執拗にそれを拾おうとするため、先に蓮はそれを拾って相手の背中に押し付けた。


 悲鳴に鳴らない悲鳴が屋上と、降り頻る雨空に響き渡る。


 両膝を崩してその場に倒れる楠本を一瞥し、「気分悪っ」蓮は持っていたスタンガンに目を落とした。
 こんな凶器で相手を傷つけても喧嘩に勝ったどころか、罪悪に苛むだけだ。スイッチを入れると放電するスタンガン、目に見える電流を見つめ、蓮はスイッチを切った。




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あきゅろす。
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