04-18
「けど、俺達も用心しねぇと相手が逃げっ、くそっ。一時身を引き始めやがった!」
ヨウ達の出現によって体勢を立て直すためか、楠本側の不良達が脇目も振らず路地裏を駆け出す。
逃がさないよう指示を送るヨウ自身も奴等を追うために駆け出した。
当然、蓮もそれについて行かなければならないのだが、蓮は視線を上げて宙を睨むと敢えて踵返し、「仲間を頼む!」路地裏から飛び出す。「あ。おい!」ヨウの呼び掛けを無視し、蓮は痛む鳩尾も気にせず大通りに出た。
大通りすぐ側では、バイクが数台停まっており、そこに携帯で連絡を取り合っているヨウの舎弟がいる。
蓮は密集したバイクの固まりを通り過ぎ、「え。蓮さん?!」ケイの素っ頓狂な声音を聞き流して、手前の路地裏に飛び込む。一本道のそこは生臭さがやけに際立っていた。雨のせいで悪臭が増したのだろうか?
小降りから本降りになったせいか、雨水を制服が吸って重みが増していく。
動きが鈍くなるものの、蓮は前髪から滴る雨水を払いのけて走った。行き止まりと言わんばかりの二メートル近い金網フェンスに差し掛かると、そこをよじ登り、落ちないよう足元に注意を払いながらビルの壁際へ。
外付けの非常階段の柵に手を伸ばし、勢いづけてそこに飛びつく。
ガシャン、左右に体を揺らすフェンスの悲鳴をBGMに柵を越えて踊り場に下りた。息つく間もなく、階段を駆け上る蓮は屋上を目指した。
(此処のビルは非常階段が両側についていた筈。だから屋上から向こうに非常階段に行けばっ…、楠本のいた場所に辿り着けるっ)
この勝負、“エリア戦争”の時のように親玉を倒さなければ終決しない。
どんなに向こうの不良達を伸そうと、頭を倒さなければ終わりは来ないのだ。すべてを終わらせるためにも、楠本を倒さなければ、自分の手で倒さなければならない。鉄板の階段を上りきり、すぐさま向こうの非常階段に向かう。が、蓮は足を止めてしまった。何故ならば向こうの非常階段に赴く必要がなかったからだ。
「楠本」弾んだ息を整えもせず、蓮は相手の名を紡ぐ。
恍惚に空を見上げている楠本は、雨粒を顔に当てながら「サキさんが消えた日も」雨だったんだぜ、と蓮に教える。
「まるで煙のように消えちまったんだ。プライドの高い人だから、敗北が屈辱で仕方がなかったんだろうけど…、俺にはショックで仕方がなかった」
だってあの人は俺に居場所をくれた人なんだ。
自分の凶暴性さえ受け入れ、常について来いと側に置いてくれた舎兄には多大な恩義がある。「お前は」チームを追い出された経験なんて一度たりとも無いんだろうな、楠本は視線を戻し、眼球だけ動かして見据えてくる。
「俺は幾つものチームを追い出され転々としていた野良不良。その野良がやっと見つけた居場所だった。サキさんは、俺にとって本当に大切な兄貴だったんだ。あの人が俺に居場所をくれたなら、俺もまた居場所を作ってやりたい」
どんな手を使ってでも、あの人が堂々と戻れる空間をこの手で作ってやる。
不敵に笑う楠本は、「だからお前等。邪魔なんだ」さっさと消えてくれよ、言うや否や地を蹴ってきた。
懐に入れようとする拳を受け止め、蓮は楠本の空いた手に注意を向ける。空いた手は制服のポケットに突っ込まれていた。護身用のスタンガンを持っていることを既に認識している蓮は、どうにかしてスタンガンだけでも処分してしまいたいと思案を巡らせる。
「それに蓮」お前は力でこっちに屈服したくせに、ノウノウと元の鞘に戻っている。
それがいけ好かないと楠本はスタンガンのスイッチを入れて、蓮の体に突き押そうとする。紙一重に避けた蓮は「あいつは間違えたんだ!」と、声音を張った。
「お前がどれだけ榊原のことを慕っていたか、そりゃ知ってる。だけどな、あいつはやり方を間違えた。そうだろ?!」
「間違いなんてどうでもいいんだよ! サキさんは俺にとって、俺にとってっ…、裏切りのせいであの人は消えちまった!」
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