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04-15


 
 グッと握り拳を作り、蓮は恐怖心を捨てた。
 脳裏の片隅では片割れ舎弟や副リーダーの忠告が蘇っている。「無理するなら」「突っ走るなよ」「背負い込むなよ」「頼れよ」等など…、嗚呼、本当に好い仲間に巡り会えたものだ。本当に好い仲間に。

『自分が許せないなら、自分が自分を許せるようになるまで行動すればいいと思います。行動したモン勝ちですよ蓮さん』

 二度も教えてもらった荒川の舎弟の言葉に蓮はささくれ立っていた感情が緩和した。
 
 
(そうだな、何もしないでウジウジ悩んでもしょーがないよな。―…だろ、ケイ)
 
 
 何処からともなく聞こえてくるバイク音。
 それは騒々しく徘徊しているようにも思える。否、バイク音は近くで消え、代わりに「よう」元気してっか、と皮肉交じりの挨拶を掛けられた。何処からともなく聞こえた声、けれどそれは聞き憶えのある声。
 
 仲間達は聞こえてきた声を辿って、顔面硬直。
 自分も一点を見つめて、相手をギッと見据えた。路地裏の一角、ビルの外付け非常階段に上って自分を見下げている不良がそこにはいた。

 楠本は錆びかけの手摺に寄りかかり、持ち前のウルフカットを曇天の風に靡かせ、シニカルな笑みを浮かべて自分を見下げている。
 「何してるんだ?」大変そうだな、どこまでも見下してくる楠本の発言に舌打ち。まさか非常階段からご登場とは、何処までも読めない奴だ。何処から上ったのだろうか?
 
 仲間達が軽く動揺している中、率先して前に出る蓮は降りて来いと相手に物申す。
 
 「嫌なこったい」口角をつり上げる楠本は指笛を鳴らした。
 すると自分達の来た道から、私服を纏った不良が数人。おっと制服を着た奴もいる。ご大層な人数で奇襲してくれるらしい。その真心には大感謝したくなるものだ。しかも自分は見物客として見下げてくれている。まったくもって腹立たしい。
 

 文句の一つでも吐きつけてやろうか、そう思った刹那、向こうが動いた。


 「左を頼む」蓮は比較的に数の多い右側を担当、臭いの籠もった路地裏を駆け出す。何処から調達してきたのか、鉄パイプを振り下ろしてくる不良から、それを力づくで奪い取ると左から飛んでくる空き缶を紙一重に避けた。同時に仲間内から悲鳴。一瞥すれば、仲間であろう一人からスプレーのようなものを顔面に掛けられていた。催涙スプレーとやらだろうか? 目をしきりに押さえている。

 仲間は混乱しているようだが、蓮はいたって冷静だった。
 覚悟していた手前、冷静にならざるを得なかった。
 

(やっぱり俺達について来たんだな。楠本側の人間)


 だったら今頃、舎兄や副リーダーも同じ目に遭っているのではないだろうか。

 「くそっ」真っ向勝負ではないとは覚悟していたが、卑怯と無慈悲な現実に行き場のない感情が爆ぜそうになる。この感情、何処にぶつければいいのだろうか!
 襲い掛かってくる不良の鳩尾を鉄パイプの先端で突き、しゃがんで背後から横になぎ倒そうとする敵の鉄パイプを避け、蓮は勢いよく振り返る。相手の懐に入り、その胸倉を掴んでそのまま背負い倒し。視界を奪われた仲間の下に向かった。

 「やばそうか?」声を掛けてやれば、「目がぁ。目がぁ…ですよ」某アニメの台詞が口ずさめそうだと、おどけが返ってきた。幾分余裕はあるようだが、混乱している心までは誤魔化せないらしい。
 それは、まともに戦えそうな仲間も同じ事が言える。
 
 だからこそ蓮は仲間を守る側についた。
 チームの中でも手腕のありそうな仲間を選んではきたが、混乱は必ず隙を突かれる。もう少しの辛抱でヨウ達が来てくれる筈だから、それまで、それまではっ。




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