04-06
大きな安堵を見せ、柔和に綻ぶヨウは賢い選択だったと繰り返した。
仲間の無事が一番だと口にする舎兄は、「それにしても」眉根を寄せて他の仲間の反応を窺った。思いのほか、皆、冷静な眼でリーダーの視線を受け止めている。
浅倉さん達のチームメートもわりかし冷静だから俺自身ホッとする。
こういう意見によって対峙するんじゃないかって怖じていたけど杞憂だったみたいだ。
さすがは浅倉さんを支えている面子と言ったところ。
「ありえなくはない、な。楠本の考えそうなことだ。あいつ、榊原の悪知恵はしっかりと受け継いでいるし」
重々しい空気を裂いたのは蓮さんだった。
あいつの悪知恵を受け継いだ楠本なら、そして自身が経験したことなら、仕返しとして使われる手だと踏んでもおかしくはない。険しい顔で唸る蓮さんに便乗したのはシズ。
「まるで“漁夫の利作戦返し”の二の舞だな」欠伸を噛み締めながら意見した。
「ヤラれた雪辱は…、ヤラれた手で返す。ある意味…、手法は五十嵐と似ている。やや此方の方が…、悪質だが」
さてとこれからどうしたものか、眠そうに瞬きしてシズは肩を竦める。
もしも仮説が本当だとしたら、速やかに対処しなければならない。仲間内に盗聴役がいるともなれば、下手に動くことも指示をすることも、情報を伝達することも出来ない。なによりも盗聴役が誰なのか、荒川チームでは判別が出来ない。
こればっかりは浅倉チームに動いてもらわないと手の施しようがない、というのがシズの率直な意見だった。
俺達じゃあいつもこいつもそいつもどいつも盗聴役に見えるだろうからな。
できることなら、浅倉チームにしてもらいたい役目だけど…、辛いよな、自分の仲間に疑心を向けて犯人を探すっつーのも。それに、この話はあくまでも“可能性”の段階、確信を得ているわけじゃないから安易に事が漏れたらチームで仲違いが生じる。
「参った」ヨウはメンドクサそうに頭を掻いた。既に脳内はパンク寸前まで達しているようだ。真っ向勝負じゃ駄目なのかと投げやり発言。考えることを逃避している。
お前な…、一応今は双方のリーダーなんだから逃避するなって。気持ちは分からないでもないけど、これは無視できな…、へ、へ、ヘックシュン!
「大丈夫ですか? ケイさん」
ココロの問い掛けに、
「平気へいき。ちょっと冷えてきただけだから」
俺は笑って返すけど、内心は「さっむい!」だったりする。
ついさっきまで敵さんとマラソンしていたから、どうにか誤魔化していたけど落ち着くと寒くなってきたな。体がふやけている気もっ、ヘックシュン! ……こりゃあ、風邪引きそうなレベルだな。
「ケイ、僕のジャージ貸してあげようか? 他の人にも声掛けしたら、三人分のジャージくらい揃うと思うけど」
「あ。だったら私、聞いてきますね。ケイさんはハジメさんのを貸して貰って下さい」
「え、平気だ「そうやって無理をしたら風邪を引くだけですよ? 体調管理のできない舎弟は足手纏いになります。着替えないと駄目ですからね」
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