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「お前は何も知らない」




【交差点四つ角
 某ビル二階ビリヤード場】

 

「そうか、分かった。お疲れさん。ん? ああ、和彦さんを送っていく? 悪いな、頼むよ。じゃあな」
 
 
 携帯を閉じた浅倉の舎弟・西尾 桔平は、小さな溜息をついてそれを制服のズボンに捻り込んだ。
 
 入れ替わりに取り出す煙草はセブンスター。
 封が切られている箱をとんとんと叩いて一本、口に銜える。百円ライターで先端を焙っていると、「桔平」硬い声で名を呼ばれた。声音だけで主を判断した桔平は、一瞥もすることなく紫煙を吐いて返事。
 
 「大丈夫だってよ」てか、あの人はこの程度でくたばるタマじゃねえよな。
 仲間達も負傷しているけど大丈夫だって、おどけて肩を竦める。

 仕舞おうとしていた煙草を相手に投げ放り、気晴らしに吸えと誘う。
 
 間を置いて煙草を取り出すそいつは自分と同じ浅倉の舎弟だった。夕陽のような真っ赤な髪を掻き、ライターを要求してくる。無造作に投げ渡して、「シケたツラしてんじゃねえよ」桔平は相手に毒づいた。返事がないが桔平は肯定として捉える。


「ンな顔しても、状況が変わるわけじゃないっつーの。蓮」

 
 チームの頭がヤラれたことは確かに痛手だったが、それをいつまでも引き摺ってもどうにもならない。
 折角荒川達が手を貸し、こうして先導してくれているのだから自分達はそれに従わないと。それが同盟チームとしての、ヤラれた頭のチームメートとしての務めだ。舎弟の自分達が情けない面をしていたら、下っ端の奴等が尚更不安を抱いてしまう。
 気丈を振る舞うならもっとマシなツラしとけ、桔平の毒言に蓮は微苦笑を零した。「そうだな」相槌を打ってニコチンを肺に汲み取る。

 仄かに苦味を舌で味わいつつ、蓮は並列しているビリヤード台の一角に視線を投げる。
 
 そこには副リーダーと熱心に話し合っているヨウの姿があった。
 時折、「なんで連絡がねぇんだよ!」携帯を取り出しては舌を鳴らしている。外出している仲間を親身になって心配しているようだ。まるで我等がリーダーを見ているよう。リーダーとヨウの馬が合っているのは、ああした似た面を持っているからだろう。
 

 ―――…さすがはあの舎弟(アイツ)の兄貴だと思った。
 

 ビリヤード台の片隅に置いていた灰皿を手に取った蓮は、それに灰を落とす。
 肩を並べる二代目舎弟に手渡せば、「ドーモ」灰皿は受け取らず、灰だけ落としてきた。よって自分の手で、また灰皿をビリヤード台に戻す羽目になる。
 



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あきゅろす。
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