語りの語り
――これは、とある男の語り。
突然だが、少しばかり昔話をしてみる。
ここら一帯。
ああ、ちなみ“ここら一帯”とは自分が身を置いている地元を指しているんだが、この地元、別段不良が多いというわけじゃない。
不良が出没するスポットは多々あるが、多いか少ないかを問われたら、普通と答えるのが無難だと思う。
平和というわけでもなければ、危険というわけでもない。いたって普通の町だ。
田舎でもなければ、これまた都会でもない半端な土地とでも言っておこう。好きか嫌いか聞かれたら、多分前者。居心地は良い。
そんな地元だが、三年ほど前、五十嵐(いがらし)という不良がグループを従えて傍若無人な行為を振舞った。
奴はリーダーとしての器があり、尚且つ機転と腕っ節もあった男。
手前の気に食わない輩は片っ端から潰し、地元の治安を揺るがした。
主に打撃を受けたのは同族ともいうべき不良達。
奴の存在のせいで自由どころか、間接的な服従という屈辱を味わう羽目になった。
それもその筈。
社会や学校という公共の堅苦しいルールに縛られたくない不良達が大半だ。好き勝手できて“解放感”という満足を味わっているのに、それが一切断ち切られるのだから堪ったもんじゃない。
とはいえ、奴は知能犯であり正真正銘の実力者。
逆らえばどんな目に遭うか、成績の悪い不良(馬鹿共)でも容易に想像できる。誰もが五十嵐を恐れ、間接的に奴の生み出す不良同士に通じるルールに従った。
奴の地位が崩れたのは、とある二人の不良の出現だ。二人は仲間を率いて“三度”奴と喧嘩を交えている。
一番最初の喧嘩は五十嵐が高校生、例の不良二人が中学生の頃。
不良二人は仲間達共に“漁夫の利”作戦という戦法で、実力者を伸した。奴等の勝利だった。
次の喧嘩は五十嵐が大学生、不良二人が高校生の頃。“漁夫の利”作戦返しという、自分の味わった戦法を二人とその仲間達に味わわせ、奴は勝利を収めた。
仲間を率いる不良二人同士も、互いに犬猿の仲になり、対峙関係だったと聞く。その関係が災いしてしまったのだろう。
最後の喧嘩は二度目の喧嘩からそう時間は経っていない。
同年に不良二人は各々率いる仲間と共に手を組み、真っ向から勝負。ついに勝利を収め、完全に奴を傲慢という地位から引き摺り下ろしたと聞く。
仲間達の実力も勿論だが、何より着眼点を置くべきところは不良二人のリーダーシップ。
奴等が先達ことにより、仲間達は一つになって五十嵐という巨大な不良グループを伸したと聞いている。
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