003 兄さまは何も言わないけど、醸し出される雰囲気がそう教えてくれた。 おれは動くキャラ達を眺めながら、これでいいのかなぁっと思い耽っていた。 兄さまはふたりぼっち世界のため、おれのために、率先して行動を起こしようとしている。 対しておれは何もしない。 兄さま、好きなのに何もしない。 兄さま、大好きなのに動かない。 兄さま、誰よりも守りたい人なのに行動しない。 鳥井さんと話し合いが終わった兄さまは、おれをベッドに引き込んで、「大丈夫だからな」もう少しの我慢、全部が終わったら平和に暮らそう。 そう言って頭を撫でてきてくれた。 おれは兄さまに尋ねる。 鳥井さんと話していたお仕事、おれにも手伝えませんか? って。 そしたら兄さまは、「那智は俺の傍にいる事がお仕事だ」と抱きすくめてきた。 「那智は何もしなくていい。俺がぜーんぶしてやるから、だから、那智は俺の傍にいてくれ」 「でも」 「でもじゃねえ。兄さまの傍にいるの、ヤか?」 「そうじゃないです。ただ」 「文句がないならいいだろ? 那智は何もしなくていいんだ」 ろくすっぽう仕事内容も教えてくれず、兄さまは繰り返しおれの頭を撫でて、唇を落としてきた。 危険なことをする。 罪科を負う。 警察に追われるようなことをする。 それは子供のおれでも分かっていた。 おれを関わらせないようにしてくれていることも、なにもかも。 「幸せ、なろうな」 そのために兄さまは頑張るから。 治樹兄さまの言葉を聞きながら、おれは腕の中で、静かに目を閉じる。 いつだって兄さまはおれのために動いてくれる。 幸せになろうと、行動してくれるんだ。 知っていて何もしないおれ。 おれは、これでいいのかな―…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |