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003


うわ言を繰り返す兄貴は恍惚に一緒を紡ぎ、弟の体躯を抱きしめてベッドに沈んだ。

「嫌だ」

ひとりは嫌だ、兄さまをひとりにしないで。
 
兄貴の言葉に弟くんがよしよしと頭を撫でた。


「ひとりじゃないですよ」


ふたりぼっちです、綻ぶ弟くんに安堵したような笑みを浮かべて兄貴が布団に潜水…、ちょ、待て待て待て!


「ぼ、坊主等。おいちゃん等のお願いを聞いてくれよ」


頬を掻く俺を一瞥する兄貴は、「那智と離れたくない」弟くんの体躯を抱いて不貞寝を始める。

ほんっとどうすりゃいいんだろうなぁ。

困り果てていると、梅林先生がやって来た。
事情聴取のために兄貴を連れ出したいんだが、どうしても言うことを聞いてくれない。


その旨を彼女に伝えると、梅林先生は兄弟に歩んで声を掛ける。


「治樹くん。少しの我慢よ。ふたりっきりで時間を過ごしたいでしょ?」

「………」


「じゃないとずっと刑事さん達がいることになるわ。大丈夫、貴方の那智くんを取ったりはしないから」


説得に掛かる梅林先生。

俺等より上手い説得だ。


「ふたりぼっちの時間を過ごしたいでしょ?」


彼女の問いかけに兄貴が反応を示し、上体を起こした。


「ふたりぼっち、の時間…、那智。少しだけ我慢できるか?」


兄さま、少しだけ席を外す。

でもお前を置いて行くわけじゃないから。弟くんに声を掛けると、やや間を置いて向こうが頷いた。


「すぐに戻ってきて下さいね」


執着心を見せる弟くんに満面の笑みを浮かべ、兄貴がベッドから下りた。

梅林先生に耳打ちされる。

安易に兄弟を引き離すような発言は逆効果、兄弟の仲を取り持つ発言をしないといけないらしい。


なるほどな。

離そうとすればするほど反発するってわけか。




こうして梅林先生の協力の下、兄貴を連れ出すことに成功した俺達は別室で事情聴取を開始。

他人にはすこぶる冷淡な兄貴は、俺達の質問に素っ気無く返すばかりだった。

それでも受け答えしてくれるだけマシかもしれない。


しっかりと親子関係を明確にするために、兄貴に虐待のことを聞いた。

本人には辛いことかもしれねぇが、これも事件解決のためだ。


虐待の単語を聞いた兄貴だが、意外にも冷静だった。
 

「あいつからの虐待、か。今となっちゃクダラネェ暴力ばっかだったな。
恨んでいるか? まあ、普通に恨んでるよ。邪魔だったらしいぜ、ガキなんて。虐げるくれぇなら生まなきゃ良かったものを」


愛されたかった気持ちも過去にあったが、今はそれも皆無だと兄貴。

だろうな、同情はする。


「けどな」


あいつに感謝していることもあるんだ、兄貴は驚きの発言を口にした。

目を削ぐ俺と柴木に兄貴はうっとりと頬を崩す。



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あきゅろす。
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