04-08 心中で溜息をつきながら、俺はメニューに目を通す。 ボロネーゼ、ナポリタン、カルボナーラ、ペペロンチーノ…、見事にカタカナばっか。 スパゲッティなんて俺、ミートソースしか食ったこと無いぞ。 しかも此処ではミートソースをボロネーゼと呼ぶらしい。大層お洒落な名前だな、おい。 どれを選んでいいか分からず困惑する俺に、「決まったか?」向かい側に腰掛けている先輩が声を掛けてきた。俺は率直に返答。 「先輩、見たこともない単語ばっかりでよく分からないっす。先輩は何にしたんですか?」 「あたしはヴォンゴレ・ロッソだ」 「……。ろっそ? っすか?」 「ああ、ヴォンゴレ・ロッソだ」 ……おかしい、先輩と俺の間で文化の違いを感じる。 同じ国・地域・場所に立っていて、尚且つ、お互いに日本語ぺらぺらなジャパニーズな筈なのに、何故に文化の違いを感じるのだろう。 俺と先輩の間には異文化が顕在している。 見事に固まっちまった俺だけど、「じゃあ先輩と一緒にしようかな」これ以上待たすのも悪いから、同じものを頼むことにした。 見慣れないカタカナを見るのもヤだったしな。 こうして俺は先輩と同じものを注文。 よく分からないヴォンゴレ・ロッソってパスタを頼んで、やることないから手持ち無沙汰になる。 とはいえ、俺はデート中なわけだから手持ち無沙汰は失礼な表現だよな。 しっかりとデートを満喫しなければ! 人生初のおでーとだぞ、おでーと。 「あ、そうそう」 話題を切り出す俺は、先輩から借りている携帯を取り出して画面を開いた。 「先輩。俺、どうにか写メの取り方分かったんっすよ。保存もできるようになりましたし」 「何を撮ったんだ? ……まさか女などとケッタイなことを言うわけじゃなかろうな? まあそれも良かろう、仕置きの対象になるだけなのだからな!」 うえええっ、なんでそーなるんっすか。 「違いますよ」怖い顔を作る先輩に全力で否定して見せた後、空(俺じゃなくて青空の空な!)を撮ったのだと主張。 現代っ子に近付くため、俺はこうして日々苦手な小型機械と闘っているわけだ。 写メも撮れない現代っ子ってどーよ。 鈴理先輩は俺から携帯を受け取ると、綺麗に撮れてるじゃないかと褒めてくれた。 「しかし空、名前のとおり画像が空ばかりだな。空が好きなのか? 空」 「なんか、すっごいややこしいっすよ、先輩。んでもってその画像たちは俺が練習に撮っただけなんで、別に空が好きというわけじゃ。 その内、お気に入り以外は消そうと思ってますし。あ、先輩は携帯で何か撮ってないんっすか?」 「愛犬を撮ってるぞ。見るか?」 携帯を起動し、先輩は俺に愛犬を見せてくれた。 先輩はゴールデンレトリバーを飼っているらしい。 真ん丸瞳をこっちに覗かしている愛らしい犬が写っていた。ちなみに名前はアレックスだとか。 さすが先輩、俺の予想どおり名前はカタカナだな。 お嬢様の愛犬だもんな、名前がカタカナで納得だ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |