02-20 俺は自分の頬を叩いて気持ちを入れ替えると、ゆっくりと一歩を踏み出した。 なるべく下を見ないように一歩っまた一歩…、嗚呼、恐いってもう! 足が震えてらぁ! こえぇええよ! 「馬鹿、空! 無理をするな!」 「鈴理先輩、今話し掛けないで下さいっす! 話し掛けられたら俺、此処が倉庫の上だって改めて思い知らされっ…倉庫の上…、高い…。 あぁああああ! やっぱり高いところ大好きっすぅううう! 俺は高いところを愛するために生まれてきたっすよぉおおおお!」 半狂乱になりながら俺は向こうの木に目を向けた。 そこには細い枝にぶら下がっている茶色い巾着袋。 ぶら下がっている巾着袋が重いのか、細い枝は大きくしなっている。 ううっ、今にも落ちそうだな。 なんでわざわざ細い枝にぶら下げたんだよ、コノヤロウ。 早く取りに行かないと…先輩の携帯を疵付けるわけにはいかないんだって。 でも情けないことに俺、一歩の幅が小さい。 し、仕方が無いんだよ! 恐いんだから! どんなに意気込んでも恐いもんは恐いんだよ! 勇気は振り絞ってる方だよ! 褒めて欲しいくらい勇気出してるよ! ブワッ―。 突然、突風が吹いた。 「うわっ!」 俺は思わず立ち止まる。 風で吹き飛ばされることは無いけど、落ちてしまうような錯覚に襲われる。 やっぱ恐い。 すんげぇ恐い。 高いところは恐い。 此処から落ちちまうんじゃないのか、そう思っちまうくらい高いところは恐い。 今すぐ此処から逃げたい。 ……よし逃げよう、とっとと携帯を取ってから直ぐにこんなところ逃げ、あっ! 俺は思わず駆け出した。此処が何処かってのも忘れて。 何故ならさっきの突風で巾着袋がズルズルと枝から落ちそうにッ。 ちょ、ストップストップ! 携帯が地面に叩きつけられちまったら俺、 「そ…空、止まれ!」 弁償できないって! 「空くん危ないって!」 それにあれは先輩が、 「空、それ以上進むと!」 貸してくれた大事な携帯ッ! ついに枝から巾着袋が滑り落ちる。 俺は間一髪のところでそれを片手でキャッチ。 「良かぁあああァアアア?!」 安堵の息をつく、間もなく俺の体は下に落っこちた。 うん、あれほど嫌だって思ってたのにあっさり落っこちまった。恐怖を感じる暇も無かった。 前略、不況の荒波に闘っている父さん、母さん。 貴方の息子、豊福空は、今日で命日かもしれません。 「空ぁあ!」 周囲の騒がしい声が聞こえる中、俺の意識はブラックアウトしていったのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |