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02-16


で、その余所で鈴理先輩は俺の腰を引き寄せてニッコリ。

攻めモードになっているその笑顔が恐ろしいのなんのって。
 

「空、先ほどの発言は健全的なセックスから始めるって意味の発言だよな? まさかあたしとシたくないわけじゃ」
 

「おぉおお俺、言ったじゃないっすか!
まずは健全的…あー…プラトニックラブから始めましょうって! スるシないの前にお互いの気持ちを尊重ッ。
腰撫でてもらうの止めてもらっていっすか?」
 

やらしいっす。撫でてくる手がやらしいっすよ先輩。
尾てい骨辺りがぞわぞわっするっす。

しかも親衛隊から殺意の籠められた眼差しが飛んでくるので、ほんと勘弁して欲しいっす。
 
俺はどうにか先輩の手から逃れて(先輩から盛大な舌打ちを鳴らされた)、携帯を返してくれるよう頼んだ。

相応しいかどうか俺を試すとか、相応しくない男だとか言われる前に盗まれた携帯は是非とも返して欲しい。

あれは先輩から貸してもらった大切な携帯。

壊すわけにも、疵付けるわけにもいかないんだ。

 
そしたら俺を射殺しそうに睨んでいた親衛隊隊長の柳先輩がゴッホンと咳払いをして言う。「簡単に返すわけにはいかない」

 
「あれは君を試すための道具として使わせてもらう」

「そ、そんな困るっす! あれは大事な物っす! 俺のじゃないんっすよ!」


大焦りの俺に対し、柳先輩は涼しげな顔を作るばかりだった。

 
「それも知っている。あれは鈴理さんから借りた物だろ? だからこそ君を試す道具として使わせてもらうのだ。移動するからついて来てくれ」
 
  
柳先輩は早足で何処かに歩き始める。
言われるがまま俺は先輩と一緒に柳先輩の後を追った。その後を親衛隊がぞろぞろとついて来る。

傍から見たら妙な光景極まりないだろうな。
 

連れて来られたのは体育館裏からさほど離れていない倉庫。


正確には体育館裏の古びた倉庫。

その倉庫は俺が先輩と付き合うって決めた日に入った倉庫だ。

危うくアブノーマルなセックスをされそうになった場所でもある。いやノーマルもまだだけどさ。


「豊福空。君は木登りはできるかい?」

「え? い…一応できるっすけど」
 
 
あんま…したくはないんだけどさ。

顔を渋る俺を盗み見た柳先輩は細く笑い、嫌味ったらしく説明を始めた。

「だったら簡単な試練かもしれないな。ほら、あそこに木が見えるだろ?」

柳先輩は倉庫の隣に生えている一本の太い木を指差した。

 
「あそこに木があるな? あそこの木から倉庫の屋根に飛び移って反対側の木にぶら下げている携帯の入った巾着袋を、私達の前で取って来て欲しい。
幸い倉庫の屋根は狭いながらも平らだから足元を滑らせて落ちるということもないだろう」


「なんだ。試すというから凄いことをするかと思えば…、なんてことないこと試練だな。
要は木に登って倉庫の屋根に飛び移り、反対側の木に下がっている巾着袋を取れば良いのだろ?」
 
 
これならあたしでも簡単にできそうな試練だ、と鈴理先輩はやや落胆気味。

もっと凄いことで試すとでも思ったんだろう。


「ケータイ小説じゃもっと凄い試練が待ち受けているっていうのに」


なんて間の抜けた試練だと先輩は愚痴っている。

確かにやり甲斐の無い試練かもしれない。


だけど俺は息が詰まりそうだった。


木に登って屋根に飛び移る。

そんなこと俺ができるわけないじゃないか。だって、だって俺…木に登るってだけでも…。


誰にも気付かれないよう身を震わせていると、極上に意地の悪い笑みを浮かべて高間先輩が俺の顔を覗き込んできた。
 

「さあて豊福空。どうする? 僕等の試練を受けてみるか?
ただ木に登って屋根に飛び移り、物を取るだけの簡単な試練だぞ? それができたら僕等親衛隊は君と鈴理さまの関係に、癪だけど一切口を出さない。約束する。

『お守り隊』を改名して『見守り隊』にしよう」

 
逆を言えば、これさえもできなかったら僕等は君なんて一切認めない。

鈴理さまがどうこう言おうと、僕等は君と鈴理さまの仲を引き裂くからな!
 

そう脅してくる高間先輩を鈴理先輩がギロッと睨む。

瞬間、高間先輩がポッと顔を赤らめた。

睨まれても嬉しいって…ほんとド変態じゃないか。


俺は苦笑いを浮かべながらも嫌な汗を掻きっ放しだった。


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あきゅろす。
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