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09-12



「だがあまり良い状況でもないな。さてと、どうしたものか…、奴等はもう身代金要求も出しているしな」

「う、うちの親にっすか?」

「……、ああ。さっき此処で電話のやり取りがあったんだ。あたしと息子の命が惜しければ、二千万円を用意しろと」


「に…、に、二千万円?!」

 
度肝を抜く金額に俺は目をひん剥いた。

ということはなんだ。ひとり一千万ってか? む、無理に決まってるだろ!

百万だって出せるかどうか分からないのに、一千万なんてお前等、路頭に迷え! そう命令されているのと一緒だ!


どんだけ俺の家が苦しいか知らないだろっ、誘拐犯さん達よ!
 

……ガチな話、家がそんな大金、出せるわけない。一生借金生活を送れって言ってるのと同じだ。


大パニックになってないといいけど、父さん、母さん。
 


―――…ガチャ。


向こうの鉄扉の鍵が解除され、ドアノブが重く回る。
 
先輩と身を強張らせて視線を投げれば、イカついオッサンを始め、犯人さんらしき人物が四人。

ガタイがよく、みんないかにもって顔。つまりワルそうな人相をしている。

俺が目覚めたことに気付いたスキンヘッドオッサンは、「丁度いい」なんて口端を歪めて俺に歩んできた。

なあにが丁度いいのか分からないけど、く、来るんじゃない! 貧乏人を苛めたってびた一文でないんだからなっ。


うをおいい! 何するんだよっ!

胸倉を掴まれて、無理やり立たされた俺はへたれなことにドッと冷汗。

「空!」先輩が動こうとすれば、スキンヘッドオッサン、容赦なく女性に向かっておとなしくしろとばかりに張り手を食らわせた。

「先輩!」倒れる彼女を気遣う間もなく、俺は引き摺られて例のイカついオッサンの下に引き摺られた。

取り敢えず抵抗の意を示すためにギッと相手を睨めば、俺にも容赦ないビンタが飛んできた。

痛っ、生意気な目はいらないってか? そりゃスンマソっすね。

ついでに口の中、切れたみたいなんっすけど。鉄のお味がするっす。痛いっつーの。
 

所詮子供の抵抗だ。

リーダーさんらしきスキンヘッドオッサンは、「構うな」命令を下して、イカついおっさんにさっさと出せと促す。

何を出すか、疑問を抱く前に携帯電話を鼻先に突きつけられた。

これは俺の携帯、正しくは先輩に借りた携帯電話だ。


ディスプレイには『通話中』と『非通知』いう二単語が表記されている。すこぶる嫌な予感がしてきた。
 

「今、お前の親に繋がっている。声を聞かせて欲しいそうだ。向こうの女は、さっき聞かせてやったからな」


スキンヘッドオッサンが声を聞かせてやれ、俺に命令を下してくる。

声を両親に聞かせて、早く身代金を用意させる魂胆か畜生。


どっから出てくるか分かんない反骨精神が、誰が言うことなんて聞くもんかと本体に命令。俺は携帯から顔を背けた。

なんでワケも分からず誘拐されて、あんた等の言うことを聞かないといけないんだ。
 
「ほぉ」

抵抗するか、スキンヘッドオッサンが面白そうに笑って仲間にアイコンタクト。

刹那、待機していた仲間の一人、眼鏡オッサンとでも名付けようか、キャツが脇腹を横蹴り。

靴先が腹部に入って俺は情けなく転倒。

「空!」先輩の悲痛な叫びが聞こえるけど、嗚呼、応えられる余裕ナッシング。

今のは利いた。マジ利いた。効果バツグン。

咳き込んで痛みに悶えている俺を足で引っくり返す眼鏡オッサンは、人質をうつ伏せにさせると背中に膝小僧を乗せて、体重を掛ける。

痛みプラス重みに思わず呻き声を漏らす俺の首筋にダガーナイフを突きつけてきた。

グッとナイフの刃先が肉に食い込み、鋭い痛みと一緒にツーッと血が伝う。


「人質らしくしておくことが最善だがな」


じゃないとこのナイフ、今度はあの女に向けちまうぜ、眼鏡オッサンの脅しに俺は一変。青褪めて身を震わした。

そうだ、俺だけじゃないんだ人質は。大人しくしないと今度は彼女が。彼女が。

先輩が傷付くのだけは絶対に許せない。

この誘拐だって、俺ひとりが目的だったのに先輩まで巻き込んじまって。
間接的に先輩の家の名のせいだとしても、彼女のせいじゃない。


くそっ、彼女まで誘拐して欲しくなかった。



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