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08-02


こんな情けない彼氏を放っておかないのが我が彼女。

「手を貸せ」誰かと手を繋いで上にのぼれば問題ないだろうと提案してくれた。
 
それで効果があるのかどうかは分からないけど、駄目元でレッツトライ。右手で手摺、左手で先輩の手を握って、一段一段ゆっくりと段を上がっていく。
 

不思議なことに先輩と一緒に上ると怖さが半減した。
 

なんでだろう、先輩が一緒だとホッとする。
ぬくもりが恐怖心を緩和しているっつーのかな? 彼女の手のぬくもりが安心するんだ。
 
ブルブルと震える体を無視して、俺はしっかりと彼女の手を握りながら階段を上った。


「先輩」「もう少しだ」励ましを貰って俺はどうにかこうにか目的の階まで辿りつくことに成功する。

上り終えたことにホッと胸を撫で下ろして、俺は先輩にお礼を告げた。

 
おかげ様で無事に階段を上りきることができた。先輩がいなかったら俺、始終、階段麓でオドオドブルブルしていたに違いない。
 
うははっ、それで遅刻とか担任どういう言い訳すりゃいいんだ?! お笑い種だぜ、マジで。
 
 
大したことはしていない、と先輩。
 
だけど神妙な顔つきで高所恐怖症が酷くなったんじゃないかと指摘してくる。
階段から下りるだけじゃなく、上ることにさえ恐怖心を抱くとはある意味重症だぞと正直にズバッと言ってくれる。
 

変に遠慮をしてくれないところが有り難いな。先輩らしい発言だ。

俺は「そうっすね」と曖昧に笑って、チラッと後ろを一瞥。
 
どどーんっと待ち構えている某急斜面さまに眩暈がした。

今日は移動教室もある。ひとりで上り下り、果たしてできるのだろうか。その光景を想像するだけで眩暈、吐き気、動悸が。


困ったなぁと苦笑する俺を意味深に見つめていた先輩は、たっぷり間を置いて「まあとにかくだ」話題を。
 

「これでは生活に支障が出るだろう? 現状を見る限り、階段で相当苦労しているみたいだからな。何かあればすぐにでも駆けつけたいが、あたしにも限度がある。だから空、何か遭ったらばあやの名を呼べ」

「え、お松さんの名前っすか?」


「そうだ。ばあやはあたしが学内にある間、いつでもどこでもどんな時でも空を見張っておく…、ゴッホン。空を見守っておくよう頼んでいるんだ」

 
どうしても階段の上り下りで支障が出るようだったら、ばあやの名前を呼ぶがいい。すぐに飛んで来るから。
 
さらっと言ってくれる彼女だけど、え、いつでもどこでもどんな時でも俺を見守って(見張って)下さってるんっすか、お松さん。それはそれで怖いんだけど。


「大丈夫っすよ」そこまでしてくれなくても、遠慮する俺に「アホか!」先輩が怒声を上げた。


「あんたに何か遭ってからでは遅いのだぞ! 例えば階段を下る途中、恐怖心からその場で佇んでしまうとしよう。その時の空の顔は、きっと半泣きで欲情を煽る表情だと思う。そんな顔を他の女が見て、押し倒そうとしてきたらどうする! あんたのお初はあたしと決まっているのだぞ!」

「……、安心して下さい。学内の隅々を探しても先輩の妄想するような危険人物はいませんっす」
 
 

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