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「人肌恋しいだけっすよ」

 
□ ■ □

 

「あら、おかえりなさい空さん。遊びに行っていたの?」


家に帰ると、母さんが台所に立っていた。夕飯の仕度をしているらしい。
 
トントントンとリズミカルに奏でていた包丁の音を止めて、玄関で靴を脱ぐ俺に声を掛けてくる。

「ただいま」俺は笑みを浮かべながら挨拶をして、ちょっと遠出して遊んできたと口答。
流し台に立って手を洗いつつ、切られた野菜を目にやって俺から話題を切り出す。

「着替えたら俺も手伝うから。ちょっと待ってて」

「そう? じゃあ、私は味噌をといておくから着替えたら、和え物を作ってて」

分かった、俺は頷いてタオルで手を拭くと寝室に向かってブレザーを脱ぐと、ハンガーにそれを掛ける。
 
皺の寄らないよう気を遣いながらハンガー掛けにハンガーを戻して、カッターシャツのボタンを一つひとつ外した。

随分歩き回ったから汗掻いてる。洗濯しないとな。

俺はぞんざいな手つきでシャツを机に放った。


と、俺はシャツの向こうに見える写真立てに気付く。

目を細め、ぎこちない手つきで写真立てに手を伸ばした。手に取ったのは実親の写真。

 
父さん…、母さん…。
 
 
「空さん、今日は誰と遊んできたの?」


我に返った俺は、「アジくんとだよ」写真立てを定位置に戻して嘘をついた。
 
「楽しかった?」母さんは味噌をときながら俺に感想を求めてくる。

「うん」アジくんの地元に行って来たんだ、と俺はうそぶいてズボンを脱ぐとジャージを手にして着用。

ズボンもハンガーに掛けてしまい、シャツの袖に腕を通しながら母さんの手伝いをするため、俺は台所へと向かった。


再度手を洗い、和え物作りに精を出す。といっても、ほんとただ食材を酢で和えるだけなんだけどさ。
 
和え物を作りながら、俺は母さんと他愛もない会話を交わしていた。
 
出来上がった頃合を見計らうように父さんが帰宅したから、三人揃っての夕飯。
これまた他愛もない談笑を交わしつつテレビを観て、家族団らんの時間を楽しんだ。その後、俺は机に向かって勉強、父さんは母さんと晩酌をして時間を過ごしていた。

「勉強もほどほどにな」父さんが途中乱戦してきたもんだから、「特待生だし」と俺は自慢げに返す。
 

「ちょっとでも気を緩ませたら、俺、学年トップ10から落ちちゃうし」

「空くらい勉強熱心だったら、父さんも今頃ハーバード大学に入れてたかもな」


またそうやって息子を茶化す。

拗ねる俺に、「本当さ」空はそれだけの力を持っていると褒めてくれた。
 
嬉しくないといえば、それは嘘になる。
だって両親に褒められたんだ。やっぱ嬉しいじゃん。

実の子じゃない息子をこうやって褒めてくれるんだ。尚更嬉しいよ。此処にいてもいい気がするから。
 
これからまた暫く勉強に浸っていると、母さんに風呂に入るよう促された。

返事をする俺は勉強道具を片付けて早足で風呂場に向かう。んでもって今日一日の汗を流してリラックス。極楽極楽を満喫した後、風呂から上がって寝る支度へ。部屋が狭いから敷布団を寝室と居間の双方に跨って敷かないといけない。


テーブル台を片付けて俺は母さんと三人分の敷布団を敷くことに専念。
 


「あら、これ…」



と、母さんの声。

振り返ってどうしたのかと訊ねれば、俺の制服付近で屈んでいた母さんはクモを見つけたみたいと苦笑いを零した。

そりゃあ古く狭い家だもんな。
イエグモくらいしょっちゅう出るって。


クシャリ―。


向こうから聞こえる紙音に気付かなかった俺は、布団を敷いてしまうと机上に置いていた携帯を手に取って、窓辺付近に座った。あくまで付近。窓辺には絶対に近寄れなかったから、付近の壁に腰を下ろして後ろに凭れ掛かる。

 

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あきゅろす。
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