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07-17


『で、だ空。あたしが悩んでいるのは浴衣の柄なんだ。一応あんたの好みを聞こうと思う。蝶に金魚、朝顔、どれもあんたに似合いそうな柄なんだが、あたしとしては色気のありそうな花柄が良いと思うんだ!』
 
「あの先輩…、男物の前提で話を進めてますよね?」

『勿論女物だ。問題でもあるのか?』

大有りっすよっ、俺、生物学上は男なんですけどっ。

「男物がいいっす」俺の申し出を、『却下だ、可愛さが半減するだろ』こうのたまってことごとく否定して下さる。

女物を俺が着たら可愛さ半減どころかっ、キモさ増大なんっすけど。


「俺が着ても似合わないと思いますよ」

『なっ! 馬鹿を言うんじゃない空。何故、着る前から消極的発言をする? 着てみないと分からないではないか!』


いいか、何事も経験してみないと分からないものだ。食わず嫌いならぬ着らず嫌いでどうする。
それに似合う似合わないはあんたが決めることではなく、あたしが決めることだ! 空の浴衣姿、カッコ女物カッコ閉じる、素晴らしいではないか!

想像するだけで襲いたくなるぞ。

浴衣だと脱がしやすいし、色気も格段にアップして、これまた興奮すると思うのだが。あたしが着ろといえば着る。
空、これは決定事項だ。

いいな、浴衣は絶対に着ろよ! 


おっと…、休憩時間が終わる。


ということで空、浴衣のチョイスはあたしがするから心配するな。可愛くエロイ浴衣を探してやるから!


では、またな。
どうやら向こうの音を聞く限り、外出しているようだが、くれぐれも女に襲われないようにしろよ。

空は良い体躯をしているからな。特に腰辺りがエロイのなんのって。

今度こそ、じゃあな。


また電話するから―――…ブッツン…プーップーップー。
 




電話、切れちまった。




俺は遠目を作ったまま携帯を折り畳んでポケットに入れる。

先輩、俺に浴衣の意見を聞きたかったんじゃないんっすか? 聞くどころか、最後は強引に自分でお決めになっちゃって。

しかもなんで外出してるって分かったんだろう。携帯越しから聞こえる音だけで分かるのかな? だったらすげぇ。
あと、腰辺りがエロイって…っ、先輩だけっす。そんな風に俺を見るの。

始終、後ろで俺等の会話を聞いていたイチゴくんは見事に噴き出して大笑い。ヒィヒィゲッラゲラ笑ってくれた。


「う、噂以上だなっ! 空っ、見事に女扱いされてやんの!」

「煩いなっ…、しょーがないだろっ。向こうが男ポジションに立ちたいって言ってるんだからっ。あの強引さには誰だって負けるよ」
 

反論しても意味なし。意味皆無。意味霧散。
イチゴくんは暫くの間、痙攣する如く大笑いして下さった。

笑われれば笑われるほど羞恥心が芽生え、にょきにょき成長してしまう。

頬を赤らめて、相手を睨んでみる。
目尻に溜まった涙を拭くイチゴくんは、「まあさ」クスクス笑いながら一応フォローに回った。
 


「男ポジションを譲ってやるくらいなんだから、お前、相当先輩って方のこと好きなんだな。俺だったら、幾ら美人さんでもごめんだもん。男ポジションを譲るの。やっぱカッコつけたいとか、女の子にカッコイイと思われたいとか思うじゃん? 女の子をリードしたいし」
 


妥当な意見を頂戴してしまった。

確かにそうだよな、普通はそうだよな。
女の子をリードしたり、守ってやるとかキザめいたことを言ってりして、カッコイイと思って欲しい。


普通はそう思うよな。
けど俺等カップルはちと異質。男女ポジションがまんま逆転してしまっている。傍から見ればヘタレ男と変人女と見られないでもない。

誰かは言うかもしれない。男の自尊心を傷付けられて耐えられないと。女にいいようにされているなんて言語道断だと。

まったくもってそのとおり、俺もちょいちょい男の自尊心が傷付けられて嘆くし、いいように振り回されて溜息をつくことも多々。
 


それでも、それでもさ。

俺は彼女のこと、好きなんだ。

奇妙奇怪摩訶不思議な行動を起こして俺を困らせてばかりだけど、彼女が喜ぶ姿を見られると俺も嬉しい。

少しくらい傷付いてもいいよ、喜ぶ顔が見られるならさ。



ま、度が過ぎると勘弁だけどさ。
 


「好きだから許せるんだと思う」俺の返答に、「ノロケ!」ごちそーさまです、とイチゴくんがまた新しい笑声を上げた。


照れちまったけど、ノロケには違いないから俺も一緒に笑っておく。


それだけ俺は先輩の事が好きなんだ。


彼女の目論見どおり、俺はもう落ちちまってるんだよ、きっと。
 
 

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