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07-14


「ま、俺の友達にエレガンス学院に通っている奴がいるけど、そいつの話曰く、確かに苦労してる人間もいるみたいだよな。弁当の中身が悲惨な奴がいて、おかずを恵んでやったって言ってたし。まあお前には関係ない話だろうけど」

「はあ。世の中には大変な人もいるんですね。俺もおかずを恵んでもらった口なんで、なんとも言えないんですが」

おかげで今のフライト兄弟がいるんだけどさ。


「そいつ、イチゴミルクオレを奢るだけで感動するらしいし。たかだか80円のパックで大感動らしいぞ」

「80円もするイチゴミルクオレを奢ってもらえる。そりゃもう、感激も感激じゃないですか。滅多なことじゃ飲めないなら尚更かと。俺なら大感激ですよ!」


「時々ノートがチラシの裏で代用されているらしい」

「俺もしますします。究極にお金がなくてノートが買えなくなった時にチラシが活躍するんですよ。意外と書くスペースあるんですよねぇチラシ」


「……、学食堂のメシが食いきれなくて持ち帰ろうとしたとか」

「うっわぁ! その人と俺、気が合いそうです! 俺も持ち帰ろうとしたんですよ。だってお金払ってるんですよ。そこに置いて行くなんて勿体無いじゃないですか!」



「……、……、……。もしかしてお前。本多照彦って男、知ってるか?」

「あれ、アジくんを知ってるんですか? 奇遇ですね」
 


へらへらっと笑った直後、「お前じゃねえか!」その苦労人は! っと盛大にツッコまれた。

驚く俺を余所に、「なんだよ本多の友達か」一変して翼さんは表情が緩和した。

つられて俺も表情が緩和する。

こんな偶然もあるもんなんだな、さっきのダンマリはどこへやら翼さんは饒舌になった。
 

初対面だから警戒されてたみたいだ。
けど会話の契機を掴んだから、すっごく気さくになってくれる。


「聞いてるんだぜ、本多から色々とさ。あ、俺、本多と同じ小中学校に通ってたんだ。空も隣に住んでたら、一緒の学校に通ってただろうぜ」

「翼さん、アジくんはいつも俺のことを?」

「翼でいいって。敬語もなしなし。で、話は聞いちゃってるぞ。お前、彼女とスッゲェ噂になってるんだって? 公開ちゅーとかするんだろ?」


ぶはっ!
残り少ない珈琲を啜っていた俺は盛大に噴き出して咽た。

あ、アジくん、翼くんになんてことを話してっ。

ゴホゴホと咽る俺に、「本当なんだ」にやりと翼くん。

オープンスケベめとかいたらん称号を頂いてしまった。
俺は必死にチガウチガウと首を横に振って、赤面しながらボソッと反論。
 

「か、彼女が仕掛けてくるんっす。その俺の彼女…、すっごく…雄々しくて」

「それも聞いてる聞いてる。姫様抱っことか普通にしてくるんだろ? すっごいな、お前の彼女」
 

んでもって美人さんなんだって? 嬉しい限りじゃん。
 
翼くんに揶揄されるけど、「嬉しい限り…」俺は思い出のページを捲る。

嬉しいどころか、あーんなことやこーんなことをしようとして、毎日のよう逃げ回った俺。


女装をされそうになったり、危うく食われそうになったり、小説で二次創作されたり。


………。


ははっ、嬉しい限りですね。
泣けてきます、ええほんとにもう、悲しくて。

「それから」翼くんは思い立ったように台所へ。
クエッションマークを浮かべる俺の下に戻って来た翼くんは、「やるよ」苺の飴玉の入った瓶を差し出してきた。
  
 
ピシャアアン!

戦慄が走る。
あ、アポなしに上がった客人に飴玉を下さるだなんて。

しかも、瓶を傾けて俺の手に平に五個も六個も七個もっ、どうしよう、この人めっちゃ良い人だ。


うわぁああっ、此処に天使がいる! いちゃうんですけど!

 
「あ、あのっ、イチゴくんって呼んでも? アメくんでもいいけど、ここはやっぱりイチゴくんで」

「ははっ、本多の言うとおりだ。餌付けしやすいな、空って。いいよ、イチゴくんって呼びな。本多に今度、自慢してやるから。あ、俺もあいつのことアジって呼ぼう」

 
きっと驚くだろうな、悪戯っぽく笑う翼くん改めイチゴくんはメアド教えてよ、と積極的に話し掛けてくる。


俺はいいよっと快諾。

携帯こそ先輩に借りてるけど、先輩は俺の友達のアドレスも気軽に入れていいって言ってくれた。

ただし女の場合は自分の知る奴限定、と条件を付けて。


だから俺の携帯には鈴理先輩の他に、宇津木先輩や川島先輩、大雅先輩、フライト兄弟のメアドが入っている。


ちなみに全部鈴理先輩が入れてくれたから、メアドの交換がいっちょん分からん。これっぽっちも分からん。
 
 

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