[通常モード] [URL送信]
06-17


ちょっとだけ瞠目する真衣さんだったけど、正直に答えてくれた。「いいえ」と。

率直に物申してくれる真衣さんは、驚きはしたけれど不快には思わなかったし、心配にも思わなかったと話してくれた。

何故なら、俺の話をする先輩がとても必死で楽しそうだったから。

両親がどう思ったかは分からないけれど、自分達姉妹は凄く微笑ましい気分で静聴していたと言う。


「それに許婚の話なら、四姉妹各々に一応取り付けられているから、仮に別の恋人を作っても何も思う点はないの。咲子お姉さまも同じように恋人を作っていたし。それに大雅さまと鈴理さんの関係を見てると、あの二人じゃ絶対に上手くいかないとも分かっているから。
対して貴方様には本当に心を開いているのね。鈴理さん、よく笑っているわ」


「先輩、ご家族とも仲良くしたいと思いますよ。ただ、そのー」

「分かっているわ。家族評価を気にしているのよね、鈴理さん。だから全然、私達に歩み寄ろうとしなくなって。特に私には」
 

真衣さんは哀しげに笑みを零した。

そういえば真衣さんは、竹之内財閥の期待の星だったな。

姉妹の中で一番期待されている。

だから先輩は…、そっか、先輩、彼女に歩み寄ると自分の疎外感を痛烈に感じるんだ。
仲良くしたいけど、彼女に近付けば間接的に傷付くって分かっているから。

「昔はね」あの子と一番仲が良かったのよ、真衣さんは憂い帯びたまま語り部に立つ。


「趣向も行動も正反対だったあの子と、本当に仲が良かったの。反対だったからこそ、お互いに補う点が多かったのかも。毎日一緒に遊んでいたのに、月日は残酷ね。いつの間にか私達の間に隔たりが生まれてしまっていたわ。あの子から姉妹の私達と距離を置くようになって、咲子お姉さまに何度相談したことか。昔に戻りたいわ」


こんなことなら期待されない方が良かったかもしれない。

小さな呟きは独白に近かった。
聞いてはいけない独白だったかもしれないけど、俺の耳にはしっかり届いてしまう。

人の家庭だから安易な事は言えないけど、これだけは言える。


「先輩は臆病になってるだけで、きっと真衣さんと同じ気持ちだと思うっす。昔みたいに、無邪気に仲良く出来る時代に戻りたいと思ってるっすよ。でも、昔には戻れないっす。残念な事に。……だから、これからもっかい作ればいいんだと思うっす。仲良くできる時代を」


「作る?」

「はいっす。俺も経験あるんっすよ。家族のことで、そういう経験が。今は仲が良いっすけど、当初は俺がとても我が儘で」
 

あの頃、俺がまだ実親を亡くしてそう月日が経ってない頃。

俺は俺を引き取ってくれた今の父さん、母さんを両親として受け入れるまで相当時間を要した。

だって信じられなかったんだ。実親が死んでしまったなんて。

毎日、玄関前で実親が迎えに来てくれるのを待った。
時に近所まで赴いて、一生懸命実親の姿を探した。


いつかは来てくれると信じていたんだ。

大好きな父さん、母さんが迎えに来てくれることを。
 
 
晴れの日、曇りの日、雨の日、毎日のように実親を待っていた。

遊びにも行かず、大半を玄関先で過ごしていた俺を見かねた父さん、母さんが声を掛けてくることもあったけど、聴く耳を持たず俺は座り込んで待っていた。


その内、暇さえあれば母さんが隣に座ってくれたっけ。父さんが隣に座ってくれていた時もあった。

俺の気の済むまで、両親は俺に付き合ってくれたんだ。話し相手にもなってくれた。


―…本当は分かっていたんだ。
 
幼い俺でも父さん、母さんはもういないんだって。


向こうの訴えてくる目が何度も何度も強く教えてくれたから。


けど、受け入れられずに時間だけ過ぎていった。
 
 

[*前へ][次へ#]

17/36ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!