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04-18

 

「先輩、あのですね」


ゴッホンと咳払いして、腰に手を当てる。

すると先輩が右の人差し指で唇を押してきた。

「文句は言わせない」

何故なら、あんたはあたしの所有物なのだから。


「あたしのすることは絶対。だろ?」
 
「はぁ…、先輩。あたし様を…っ」


発動させないで下さい。

の、言葉は口内に消えちまった。

背伸びしてくる先輩の唇の柔らかさと、行動と、場所と…、全部の出来事に俺は目を見開く。

ふわっと柔らかな髪を靡かせて、彼女は俺の顔を覗き込んで一笑。


「何もかも、あたしがしたいからする。文句は許さない。絶対にな」
 
 
ふふっと笑って顔が赤いと指摘する意地悪な小悪魔に、俺はもうどうになれと吐息を付いた。

なんで、俺、先輩に直談判しようと思ったんだっけ。今ので頭から飛んじゃったじゃないか。

場所も考えず、あんなことしちゃってからもう。


ほらぁ、向こうでお子様が不思議そうな顔をしながら親と手を繋いで歩いている。


はぁ…、 もう、どーにでもなれ。

って、思う、俺はつくづく先輩に甘いんだろうな。見事に流されちゃってからにもう。



「ッハ、噂は本当だったのか。鈴理」



ふと聞こえた第三者の声。
 
ハスキーボイスからして男っぽいんだけど…、しかも飛んできた台詞からして嫌味が含んであるような。


おずおず声の方を見やると、うっわぁあああ、何、あの美形男っ。

背景に薔薇が咲きそうなほど美形なんだけど。

なんっつーか容姿端麗で、鼻筋がすーっと通ってるんだ。


しかもうちの学校と同じ制服を身に纏っている…、てことは先輩の同級生なのか?
 

ついでと言っちゃなんだけど、見るからに金持ちそう。

そういうニオイっつーのか、プンプン漂ってくる。

俺と同族じゃないことだけは確かだ。
 

先輩は美形男に目をやるや否や、「空。これは何だ?」完全にスルーして駄菓子の一つを指差した。


えええっ、先輩、そこで無視っすか?!

無視するような方なんっすか?!


じゃ、じゃあ俺もスルーした方が…、うん、良くないっすよね。向こうの眼光の強さからして。
 

構わず美形男…、あー、Aさんって仮名をつけよう。Aさんは鼻を鳴らして毒づいた。
 

「庶民と付き合い始めたと聞いたが、本当に庶民と付き合ってるなんてな。アタマ大丈夫か? 容姿も取り得も財力もなさそうな奴だが」


心を抉る三拍子を揃えなくてもいいじゃないか! 俺だって気にしてるんだから!

……別に貧乏が恥ずかしいとか、微塵も思ってないけどさ。


Aさんの発言に片眉をつり上げた鈴理先輩は、「あんたには関係ないだろう」喧嘩口調で突っ返す。
 

「あたしの意中をあーだこーだ言う権利など、あんたにないだろ。ったく、相変わらず小さいことでグチグチ言う男だ。ケツの穴も小さいんじゃないか? 掘られてしまえ」


なっ…、せ、先輩、なんて品のないことを!

仮にも貴方様はお嬢様ですよ! 身分を抜かしても貴方様っ、女の子ですよ!

……ほ、掘られてしまえって…、深い意味は考えないようにするっすけど。

 
「フン、相変わらず性格的に可愛くねぇ女オトコめ。姉妹たちとは大違いだな」

「姉妹は姉妹。あたしはあたしだ。ヘタレ男」

「だあれがヘタレだ。泣かすぞ。ああ違った、鳴かすだったな」

「ほぉー。あたしを鳴かせる? たわけたことを言ってくれる。あたしがあんたを鳴かすなら分かるけどな。ま、あんたを鳴かすなんてごめんだ。あんたの喘ぎ声を聞いて、誰が喜ぶ?」


「全国の女性たちじゃねえの?」

「ははっ、自意識過剰にもほどがある発言だな」

 
………、ついていけねぇ、この、お下品な会話。

完全に俺は蚊帳の外に放り出されてるしさ。
 

唖然としてやり取りを見つめていた俺は、さて、どうやって輪に入ろうかと思案を巡らせる。


輪に入りたいわけじゃないけれど(寧ろ品のない輪に入りたくないけど)、このまま放置プレイされるのも些か辛い。

先輩を罵っているAさんのお名前くらい知りたいしさ。

流れからしてただの同級生ではなさそうだし。


いざ口を開かんと唇を微かに動かした直後、「お前が豊福か」Aさんに名指しされた。


向こうは俺のことをご存知の様子。



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