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01-02



―学食堂―

ショーウィンドウにて。



「なあなあ、エビくんエビくん。
俺さ、すっごく迷ってるんだけど。オムライス定食にすればいいと思うか? それともハンバーグ定食にすればいいと思うか?」

 
「空くんよ。歓喜に心躍らせる気持ちは察するが、まずボクのことをエビくんと呼ぶのをやめたまえ。
エビという同類にされてしまうではないか。何が悲しくてキチン質の殻におおわれた生き物と同類にされなければいけないのか。大体、名前にエビなんて字。また似たような字。一つも無いぞ」



黒縁眼鏡を押しながら俺に注意してきたのはエビくん。
本名、笹野 義樹(ささの よしき)。通称エビくん。
 
なんでエビくんかっていうと話せば長いようで短いんだけど、おかずのない弁当を見た俺にエビくんがエビフライをくれたんだ。

まだ会話すらしてなかったっていうのに、俺の悲惨な弁当を見たエビくんが「どうぞ」ってエビフライを恵んでくれた。
 
めっちゃ嬉しかったから、その日から俺、笹野のことをエビくんって呼んでるんだ。


エビくんは嫌がってるけど、俺的にこっちの方が呼びやすい。
 

「決まったか?」

「実はまだ決まってないんだなぁ。アジくん」


俺とエビくんに歩み寄って来たのはアジくん。
本名、本多 照彦(ほんだ てるひこ)。通称アジくん。


なんでアジかっていうと、エビくんで察しはつくと思うんだけど、アジくんもまたおかずのない悲惨な弁当の中身を覗き見したみたいで、俺にアジフライを恵んでくれた。

だからアジくん。


本多でもいいけどさ。

も、俺の中じゃアジくんで定着してるんだな、これが。


ちなみにエビくんとアジくんのコンビをフライト兄弟。

エビくんに「ライト兄弟的ノリで呼ぶな!」ってツッコまれたけど、だってなぁ?

どっちもフライくれたし、俺的に気に入ってるネーミングなんだ。


まだショーウィンドウに飾られてるサンプルを眺めては迷ってる俺を見て、アジくんは大袈裟に呆れてみせた。


「遅ぇって。早くしろよ。席取られちまうだろ?」

「ごめんごめん。でもさ、俺にとって初学食デビューなんだよ。父さんが、あの父さんがっ…俺に小遣いを…500円っ、嬉しくて…嬉しくて」


口元に手を当てて、俺は感涙する。

不況でも汗水垂らしながら働いてる父さん、ありがとう。

貴方のおかげで俺、豊福空は初学食デビューを飾る事ができます。美味しく学食を食べてきますんで安心して下さい。まる。
 

「よ…良かったな」感涙する俺にアジくんは引き攣り笑いを浮かべ、「空くんの家は大変だよな」エビくんは同情してきた。


馬鹿、同情するな! 同情するなら金をくれ! 恵んでくれ!


俺は目尻に溜まった涙を拭うと、ハンバーグ定食に決めて二人と一緒に学食堂へと入った。
 

昼休みともなれば、学食堂は人でごった返している。

和気藹々としながら駄弁りながら飯を食う生徒達があちらこちらで見受けられた。

食券を買った俺達は、それぞれ頼んだ定食を係りのおばちゃんから受け取って席に着く。

夢にまで見た学食に俺のテンションは最高潮に達していた。

ハンバーグを一切れ口に入れて大感激。


 
嗚呼、これが350円のお味なんだな。


学食のお味なんだな。美味い。

 

ジーンと感動に浸りながら感想を述べれば、「350円のお味って」アジくんが苦笑いを零した。



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