016
「【マナ】を使う。構えろ」
『はい、かしこまりました』
翼をはためかせ、ジランダがベルトルの前に回る。
ベルトルは自分の【マナ】をジランダに送る為、呪文のスペルを唱え始めた。紅色のオーラを身に纏ったジランダはしっかりとベルトルの【マナ】を受け取り、自分の魔力【ドラ・マナ】と混同させる。
体内で【マカ】を作り上げたジランダは大きく口を開けると、食獣植物に向かって火炎を吐き出した。
全てを焼き払うような火炎に食獣植物はたじろぐ。
しかし、本体にまで行き届かない。
本体に炎が届く前に、小さなハエトリグサ似の葉や根や蔓が本体を守るように阻んでくるのだ。
ジランダは悔しい思いを抱いた。
自分の魔力では本体まで火炎が行き届かない。
もしも、自分ではなくラージャがベルトルのパートナードラゴンだったならば、本体に攻撃が届いただろうか。
悔しい。悔しい。くやしいッ。その思いだけが募る。
“俺ちゃま、アルスのパートナードラゴンは俺ちゃましかいないと思ってるんだぜ?”
ラージャの言葉が蘇ってくる。
アルスのパートナードラゴンは自分しかいない。胸を張って言ったラージャが羨ましい。妬ましい。
自分だって同じなのだ。本当はベルトルのパートナーは自分しかいないと、自分がベルトルのパートナーだと胸を張って言いたい。
堂々と言ってやりたい。
けれど。
自分がそう思っても、ベルトルはそう望んでいないし、自分以上のドラゴンなんて世の中ゴマンといる。
食獣植物の根が再び襲い掛かってくる。
ベルトルが呪文のスペルを唱えてジランダに【マナ】を送ってきた。【マナ】を受け取ったジランダは、悔しい気持ちと負けたくない気持ちが強くうねり入り混じった。
キッと食獣植物を見据えると、主人を守る為、そして食獣植物を倒す為に火炎を吐いた。
それでも、やはり本体には届かない。小さなハエトリグサ似の葉や根や蔓が本体を守るように阻んでくる。
「チッ、厄介だな」
『ベルトルさま。何度も【マナ】を送って下さい。私は何度だって本体を狙います。何度だってッ』
「……ジランダ?」
いつもの落ち着いたジランダの声が、今は少し荒々しい。
闘争心剥き出しで食獣植物の攻撃を避けながら、ベルトルの【マナ】を待っている。
こんなジランダ、見たことがない気がした。
ベルトルが怪訝な顔をしながらも、今は食獣植物に集中することにした。
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