010
「ひとりがワシの気を引き、ひとりが瓶を奪い、ひとりがワシを捕まえる。見事な連係プレーじゃ。してやられたわい。ッ、じゃが!男児諸君! 老人を労わるという気持ちとか、手加減してやろうという気持ちはないのか?! これはちっとやり過ぎじゃぞ!」
「今、こいつ何か言ったかぁ?」
「さあな。全く聞こえなかったが」
再び3人はモジュと共に保健室にいた。
アルスとベルトルはモジュに視線を投げかける。投げ縄により縛られているモジュの頭には無数のタンコブ。しかも傷や痣だらけ。50cmほどしか身長の無い小人老人は、見た目どおりボロボロだった。
酷い酷いと喚くモジュをアルスとベルトルが見下ろす。その見下ろす視線は殺意さえ感じる。
モジュはサッと口を噤んで、傍観者となっているフォルックの方に視線を向ける。
フォルックならば助けてくれるのではないか?そう思ったのだ。
フォルックはモジュに同情しながらも、超強力動物変身薬に目を向ける。
アレを自分達に引っ掛けようとしたのだ。あんな目に遭うのも自業自得だ。にこやかな笑みを浮かべてフォルックはヒラヒラと手振るだけだった。
誰も助けてくれないと知るやモジュは、また性懲りも無く喚き始める。
「可愛い小人ジジイの悪戯じゃぞ! 目を瞑ってやるという寛大な心はないのか?!」
「人を散々弄びやがったくせに、このクソチビジジイ、何ほざいてやがるんだよ!」
「おー恐い恐いッ、にゃん口調の方がまだ可愛かッ、グハ!」
アルスとベルトルが同時にモジュにパンチを入れた。
息ピッタリだなぁ、さっきまで喧嘩していたと思えないほど息がピッタリだ。
フォルックは思わず感心してしまう。
「ぼ、暴力大反対じゃぞ!」
「黙れ。クソチビジジイ。貴様ッ、この俺をよくもコケにしてくれたな?」
「何が気に食わなかったんじゃ! 貴重な体験をしたと思うぞ?本当に猫耳が生えて、にゃん口調で喋る。3人合わせて『萌え(キモ)☆ キャットボーイズ』なんてッ、グヘ!」
今度は2人同時にモジュにキック。
やっぱり息がピッタリだ。本当は2人とも、仲良くデキるんじゃないかな?
フォルックはそう思って仕方がなかった。
更にボロボロになったモジュは何やら思案し始める。
そして意を決したように口を開いた。
「よし! 分かったぞ! お主達の怒りが消える方法が!」
「え? 僕達の怒りが消える方法?」
「そうじゃ。お主達は猫耳について怒ってるじゃろ? じゃあ、ワシにも猫耳を付けるんじゃ! ワシ、にゃん口調で喋ってやるから大いに笑うが良い!」
もしかしたら萌えるかもしれないぞ?ワシって小人だし案外癒し可愛いし、とモジュが真面目に言ってくる。
その瞬間、アルスとベルトルの太い血管が一つブッツンと切れた。
「ふっざけるな!」
「グハ!」
「死ねッ!」
「ヤじゃ! 死にたくはないぞッ!」
「誰がジジイの猫耳を見たいと思うか!」
「きっと笑えるし可愛いし萌えるかもッ」
「誰が貴様の猫耳姿なんかで笑えるか!」
「おちつッ」
「萌える馬鹿が何処にいるんだよ!」
「ワシは、これでもお主達のことッ」
「真面目に言うところが腹立つ!」
「グギャー! イダダダダー!」
「にゃん口調で喋ってやるだって?! 俺達の口調を散々馬鹿にしやがっただろー!」
「いやいやキモ……いや萌えたぞッ、ギャー!」
「よくもあんな辱めな姿にしたな!」
「ほ、本当にキモ……いやいや萌えッ、アギャー!」
火に油を注ぐとはまさにこのことだ。
フォルックは両手で悲惨な状況を見ないように、でも指の隙間からチラッと見て、つくづくそう思ってしまう。
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