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006


    
 喧しい足音を立てながら廊下を走り回り、指定された教室に飛び込んだアルスとフォルックは勢いよくドアを閉める。
 既に登校し教室で待機していたベルトルが怪訝な眼を2人に向けたが、今の2人にベルトルなんて存在、全く眼中に入らない。

 ドアを閉めた2人は、そのまま暫くドアを押えていた。

 オリアンが追い駆けて来ていないと2人がお互いに顔を見合わせて判断すると、ドアに背を預けてズルズルその場に座り込む。情けないことに恐怖のあまり腰が抜けた。

 2人とも放心状態になって、ある意味感情が麻痺している。
 呆然としながら、フォルックが口を開く。

「ねえ、アルス。僕さ。思うんだけど」
「何だよ」
「いつか、食べられるんじゃないかな? オリアンに」
「それは無い。なんて言い切れねぇよなぁー」
「そういうの、なんて言うっけ? 人が人を食べちゃうやつ」
「共食い?」
「もっと別の言い方で」
 
 放心状態になってる2人の会話を聞いて、ベルトルがポツリ「カニバリズム」と言葉を漏らす。
 2人は「あー」と手を叩いて、それだと納得し頷く。

「それそれ。カニバリズム」
「ありがとう。ベルトルくん。おかげで思い出したよ。そうそう、カニバリズムだよ」
「つまり、オリアンが俺達を食ったら」
「ウン。それはまさに……っ」

 刹那、麻痺していた感情が一気に膨れ爆ぜた。
 ナーガは「死にたくないぎゃー!」と、オリアンを思い出して叫んだ。

『あのオリアンに食べられて人生終わるなんて絶対嫌だぎゃー!』
「うわあああん! アルス! 僕達ッ、食べられちゃうよー!」
「ば、ばばばば馬鹿! オリアンだってアレでも人間だぞ?! ま、まさかそんな犯罪めいたことっ」
『大変そうだな。お前等』
「元はと言えばッ、ラージャ! お前がオリアンにあんなことッ、いつか本当に喰われちまったらどーすんだよ!」
 
 大袈裟な、とラージャが呑気に笑った。
 こんな恐怖を味わって呑気に笑えるのは、何処を探したってラージャしかいないだろう。
 アルスは「もうあいつに余計なこと言うな!」と殴ろうとするが、その前にラージャがアルスの腕から逃げ出した。アルスは握り拳を作って、どうにか恐怖のせいで抜けてしまった腰に力を入れ立ち上がる。

「ラージャ! お前ッ、マジで1発殴らせろ!」
『俺ちゃまを殴るなんて甘いぜ!この青二才!』


「べビィードラゴンの分際で、俺に青二才なんて単語使うんじゃねぇえええ!」


 ラージャを捕まえようと“変態ドラゴン対策七つ道具”の内の一つ、大きめの虫取り用のアミを何処からとも無く取り出す。ラージャは舌を取り出してアルスに「捕まるか!」と挑発した。こうなれば意地だって捕まえる! アルスはラージャを追い駆け回し始めた。
 オリアンにいつか食べられる!殺される!とフォルックはナーガと一緒に泣き始める。
  
 
「……朝っぱから、一体何なんだ」
  
  
 ベルトルが眉を寄せて、騒がしい教室を見渡す。
 職業クラス分けがあって初めてではないだろうか? 此処まで騒がしい教室は。

 ジランダが同意するように「そうですね」と相槌を打つ。
 「クダラナイ」ベルトルは頬杖を付いた。ジランダは主人のベルトルをそっと見つめていたが、聞こえないほど小さい溜息を付いて騒がしい教室を眺める。

 あの空間の中に、主人も入れたらイイのに。
 主人に言えば、きっと嫌悪されるだろうけれど、でもパートナードラゴンとしては願わずにいられないのだ。

 パートナードラゴンなんて、胸張って言える立場でもないけれど。 





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あきゅろす。
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