005
「おはようございます。エミシュ教頭先生」
「おはようございます。今日も一日勤勉励むように」
挨拶をして頭を下げてきた生徒にエミシュ教頭が「今日も一日頑張るように」と言葉を掛ける。生徒は元気よく返事を返して去って行く。
エミシュ教頭は満足気に生徒の背を見送ると、他の生徒とも挨拶を交わし同じように言葉を掛けた。
―――バタバタバタッ。
―――バタバタバタッ。
「この音は」
爽やかな朝を壊すような喧しい足音。
誰かが朝っぱらから廊下を走っているのだ。
キランと眼鏡のレンズを煌めかせ、エミシュ教頭が握り拳を作った。
「誰ザマスか! 朝から学校の秩序を乱す不届き者はッ、ぐへっ!」
エミシュ教頭が足音の方向に振り向いたその時、背中を思い切り押し倒されしまう。無様にも廊下の床に倒れたエミシュ教頭。顔面から床に倒れてしまう。
しかも、誰かが自分の背を踏んで行くという有るまじきことまで起こった。
「すみませーん!」
「ゴメンナサーイ!」
一応、謝罪の声は聞こえたが、足音は遠ざかって行く。
エミシュ教頭はゆっくりと身体を起こし、廊下に転がっていた眼鏡を掛けた。
「このエミシュを押し倒した上に踏んでおいて、逃げるとは……誰ザーマスか! 戻ってきなさーい!」
金切り声を出しながら、エミシュ教頭がヒステリックに叫ぶ。
朝から学校の秩序をブチ壊しているのは、エミシュ教頭なんじゃないか?始終見ていた通りすがりの生徒達は、しみじみとそう思ってしまった。
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