喧しい始まり
カーテン越しから朝の日差しが射し込み、窓の外では小鳥の鳴き声も聞こえてきた。
深い深い眠りについていたアルスは意識を浮上させる。身体を起こして大きな欠伸を一つ零した。辺りを見回し頭を掻きながら、自分の空いたベッドを眺め、昨日は机の上で伏して寝ていたことを思い出した。
ラージャの看病を机の上でしていた為に、そのまま此処で寝てしまったのだ。
大きな欠伸をまた一つ零しながら、アルスは籠に入っているラージャに目を落とす。
ラージャは籠の中で身体を丸くして眠っていた。
体調の方はどうだろうか?
籠の中を覗き込んでラージャの様子を窺っていると、ラージャがゆっくりと目を開けた。蜥蜴のような舌をチロチロ出して、アルスをボンヤリと見上げる。
「はよ、ラージャ。具合はどうだ? 平気か?」
『アルス。違うだろ? こういう時は、こう言うんだぜ?』
「……はあ?」
『ラージャ。目が覚めたか? 朝起きたらまず、ご飯にするか? お風呂にするか? それとも俺のパンツッ、ギャース!』
誰がデキたてホヤホヤの新婚さん定番の台詞(一部違うが)を、変態ドラゴンごときに吐き捨てるか!
籠ごとラージャを机の上から叩き落とし、アルスは朝から青筋を立てた。
朝から変態っぷりを見せ付けられたアルスは額に手をあてながら、ラージャが元気になったことに取り敢えず安堵することにした。
ラージャは籠から飛び出し、「復活!」と叫んでいる。
良かった良かったと安堵しながら、着替えることにする。
すると真っ黒な鱗を持つべビィードラゴンが期待に満ちた眼差しをアルスに向けた。アルスは、ラージャに振り返るとニッコリと笑顔を向ける。
「ラージャ。元気になって良かったな」
『おう! 俺ちゃま最強だからな!』
「そっかそっか。んじゃ、これからお前がやることは一つ」
『へ? 俺ちゃまがやること? 何だそりゃ』
「お前がやることはな」
ラージャの首根っこを掴むと、アルスは廊下にラージャを放り出す。
しまった! とラージャが思った頃には、時既に遅し。
アルスは自室のドアを閉めて鍵を掛けてしまった。ラージャは「最悪だァアア!」と叫んで、ドアを力一杯叩いた。
『コラァァア! 病み上がりの俺ちゃまにパンツ見せる優しさはないのか!』
「病み上がりのお前の為に、今日は優しく追い出しただろ?」
『これじゃあ、いつもと同じだろー! ふざけんなー!』
「ふざけてねぇっつーの。大人しくそこで待ってろ」
『クッソォー! パンツぐらいイイじゃないかよー! アルスの乙女チック変態オカマー!』
「誰が乙女チック変態オカマだ! 変態に変態言われたらおしまいだー!」
『俺ちゃまが変態なら、アルスも変態だろ?』
「お前と同じ変態だああああっ?! 俺は違う! この腐れメスドラゴンがー! 黙ってそこで待ってろー!」
ドア一枚越しに怒鳴り合うアルスとラージャの声+ラージャのドアを叩く音が、ウリダーケの家に響き渡る。
これを聞いたウリダーケの家族は「また朝っぱらから……」と大きく溜息をついていたなんてこと、アルスとラージャが知る由も無かった。
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