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人生の進路を決めるクジ引き。
この国、ウェレット王国では人生の進路を決める大事なことを、クジ引きで決めるという習慣がある。 人生の進路とは、つまり、これから先の就職のことを指す。
例えば、クジ引きで『靴屋』というクジを引いてしまったらソイツは一生靴屋の主人になることに決定。転職はなし。靴を作ったことがなくても、靴作りに一生を捧げなければならない。靴屋以外にも『僧侶』『格闘家』『兵士』など様々な職業が、クジに書かれている。
人気のある職業『魔術師』や『勇者』を引いたら万々歳。
確率は限りなくゼロに近いが、それを引いたら一生分のラッキーを使ったと思えるほど嬉しい。
逆に『格闘家』なんてものにでもなったら、最悪。
体が弱い、もやしのような奴でもその職業に一生を捧げなければならない。
ただし、病人は別だ。生まれ持って持病を持つものは、ある程度、職業を制限されてクジを引くことになる。
変な法律極まりない。
この法律に不満を抱いて仕方がないのだが、ウェレット王国では過去、皆が皆好き勝手に偏った職業を選んでいた為、不況に陥ったことがあった。
だから、先代の国王が均等になるようこの法律を作った。
良いように聞こえるが、国民にとっちゃとんでもない法律だ。
自分の職業を決められないなんて、法律に束縛されてるなんて。
当時、不満の声があちらこちらから上がったらしい。
デモまで起こしたらしいが、今じゃすっかりこの法律が国に馴染んでしまっている。
堪えられずこの国を出る奴等もいるが極一部だ。殆どの奴等が諦めて、この法律に遵っている。
ちなみに、自分の兄はこれで『医者』というクジを引いてしまい、失神したそうだ。
兄は血液を見るのも駄目だ。そりゃ、『医者』のクジを引いて倒れたくもなる。
回ってくる箱に手を突っ込んでいるクラスメイトを眺める。
皆、誰ひとり引いても中身を見ようとしない。恐くて見れないのだ。真っ青な顔をして生唾を飲んでいる。
とうとう自分の番まで回ってきた。
嫌々箱に手を突っ込んで、どうか変な職業にだけはなりませんように。
祈るように紙を引いた。
中身はまだ見ない。恐くて見れない。人生の進路が決まるのだ。そりゃ、簡単に見れるわけない。
しかしまあ、大事な人生の進路をクジ引きで決められる。なんて不運な国に生まれたのだろうか。
皮肉なことにウェレット王国は、各王国の中でも最も栄えている国。この法律によって栄えているのだろう。皮肉だ。
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