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少しずつでいい



 * *



 ―――…魔法技術では器用、だけれどコミュニケーションではまだまだ不器用。それでも精一杯、使い手として、不器用なりにやっていきたいと思っている。

 
 
 夜。
 

 部屋で休む主人と別れたジランダは、だだっ広いドラゴン部屋の四隅に置いてある台の上、ドラゴン専用の檻の中で身を丸くしていた。此処は広く冷たく心寂しい場所ではあるけれど、いつしか慣れてしまい、今は寂しいという感情を無視して眠りに就ける。
 

 ジランダは今日一日の疲労を癒すように瞼を下ろし、軽く目を閉じていた。

 怪我もしている上に一日の濃度が高かった。眠気が襲ってきてもいい筈なのに、なかなか寝付けない。疲れ過ぎて頭が冴えてしまっているのだろうか。疑念を抱きながら、ジランダは体を一層丸めて身を小さくする。
 
 今夜は冷える、傷にも多少ながら響くような気が…、嗚呼、でも平気だ。
 主人が心の底から自分を必要としてくれていると知ったのだから。自分はこんなにも想われている。これを幸せと呼ばず、なんと呼ぶ?

   

 キィ…、檻の扉の開閉音が聞こえた。

 
 ゆっくりと瞼を持ち上げる、と同時に誰かに抱き上げられる。顔を上げれば、主人が自分を腕に収めてくれていた。『?』ジランダは何か御用でも…、と声を掛けるが、「起こしたか?」ベルトルは寝ていて良いと表情を和らげ、檻の扉を閉める。
 そのままの状態でドラゴン部屋を出た主人は、迷う事無く自室に戻り、自分を枕元に置いた。

 ますます事態が呑み込めなくなる。
 しきりに首を傾げるジランダを余所に、ベルトルは自室の明かりを落とすと、さっさと毛布に潜り込んでしまった。『あのー…』困惑するジランダに、「今日から此処で寝ろ」素っ気無く言われ、背中を向けられた。
 
  
「アルスやフォルックから聞いたが、どうやら奴等はパートナーをバスケットで寝かせているらしい。家にないか探したが見つからなかった。今日はそこで我慢しろ。後日、ちゃんと寝床を用意するから」
 
『……。ベルトルさま、ですが』


「パートナーは傍に置くものだと…、癪だが奴等から学んだからな。お前は此処で寝ろ。
それと…なんだ、言いたい事があれば、別に言ってきてもいい。貴様と俺は主従関係でなく、パートナーなんだから」


 声に照れ臭さが滲み出ている。
 ジランダは呆気に取られていたが、これは主人の、否、パートナーの優しさなのだと理解する。甘えさせてくれているのだ。初めて見せてくれるパートナーの一面に泣きたいやら笑いたいやら、色んな感情が混じりあい、きゅう…と一声鳴いて、ベルトルの毛布に潜り込む。
 
 『選んでくださってありがとうございます』ジランダはパートナーの背に体を寄せ、薄っすらと膜張った瞳を瞼で隠す。


『あの時、貴方様が選んでくれなかったら、きっと今の私は此処にはいなかった』


 きっと他のドラゴン達のように売られ、魔具の一部にでもなっていたに違いない。台詞を呑み込み、ジランダは礼を何度も口にする。
 選んでくれて、手を差し伸べてくれてありがとう、と。最初こそ成り行きだったが、今はベルトルの意志で自分を選んでくれた。とても幸せだった。




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あきゅろす。
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