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016




「そういえば、ギュナッシュ先生にもパートナードラゴンがいたんですね…ヒック…」
 

 ヒック、ヒック。
 
 泣きすぎて吃逆を漏らし始めたフォルックが、巨体を持つフリートに目を向け、次いでギュナッシュに視線を投げる。ギュナッシュはドラゴンブリーダー、ドラゴンを育てることが主な仕事だろうに。使い手でもないのにパートナーがいるなんて、フォルックの疑念に担任は愛想笑い。

 「まあ、色々と」口ごもるギュナッシュの代わりに、フリートが答える。
 ギュナッシュは昔、ドラゴン使いだったのだと。


『だが事情あってブリーダーに転職許可を貰った。そのままドラゴン使いでも良かっただろうに』
 
「ははっ、嫌気が差したんだよ。今はドラゴンを育てるほうが楽しいし、子供達に教える方が楽しいし。僕には向いてなかったのさ。
それよりも、ベルトルくん、ジランダを病院に連れて行ってあげよう。アルスくんも怪我をしてたんだ。一緒に病院に行こう」


 前半の意味深な言葉は後半の言葉によって掻き消される。
  
 ベルトルとフォルックは担任も同じ職だったのかと含みある視線を投げていたが、「病院…」アルスに至っては担任の疑問より、これから連れて行かれる場所に血の気を引いた。おどおどおろおろと後退しながら、「お、俺はいいよ」汗だくでへっちゃらだと太腿を叩いてみせる。 
 あからさまに患部を叩き、痛みが走ったのか彼は顔を顰めるものの、余裕などないらしく、首を何度も横に振って行かないと主張。
 

「お、おおおぉお俺は行かない! 病院なんて、チックショウだ! うぁあああ、絶対に行くもんかー! フォルックー! 俺は行かないっ、病院行かないー! 俺帰るー!」

『ど…、どーしたんだよ、アルス?』
 

 親友フォルックの背後に隠れ、ガタブルと身を震わせるアルスにラージャは勿論、フォルック以外の者が首を傾げる。
 ようやく吃逆を止めることに成功したフォルックは、「もう」額に手を当て、項垂れた。

「また始まった。アルス、病院が幾ら嫌いだからって…、先生、実はアルス、大の病院アンド医者嫌いで。健康診断でさえ、なっかなか受けようとしないんです。去年なんて、健康診断を受けるだけで三時間、担任から逃げ回ったほどなんですから」

「え゛? そんなに? だって今度、健康診断が」

「うわぁああああ! 健康診断なんて受けねぇっ、絶対に受けねぇえええ!」

 嫌だ受けない死にたくないオワタ健康診断!
 ブツブツと独り言を唱えるアルスにフォルックは、はぁーあ…、と肩を落とした。


「という具合なんです。毎度のことながらアルスを病院に連れて行くの、骨が折れるんです。でもアルス、怪我酷そうだし、病院に行くよ!」

「お前は俺の親友だろっ、ギャアアアアア! フォルックの裏切り者ぉおおお!」


「君のためなんだって! ベルトルくんも手伝ってっ、このままじゃアルスが逃げる!」

「あ…、ああ。って、こら、三流! 暴れるな! 病院に行くのは貴様のためだろう!」


「べ、ベルトルっ、お前まで! 放せっ、俺は行かないったら行かないんだ! ラージャっ、助けてくれよっ! 俺はこのままだと病院に殺される!」

『さーな。俺ちゃま、しーらね』


「こんの薄情ものぉおおおおおお!」


 暴れ逃げようとするアルスを二人掛かりで押さえつけ、各々ドラゴンはそれを見守り、ギュナッシュはまた苦労すると肩を落とした。
 しかし、そんなギュナッシュにフリートは笑いながら聞くのだ。ドラゴン使いだったあの頃が懐かしく思うだろ、子供たちと共にいて退屈しないだろ? と。


『クラスを受け持ってから、お前はよく笑うようになった。充実した日々を送ってるようだな』

「まあね。子供達がそれぞれのドラゴンや人間同士と育んでいく絆を見ていると、正直楽しくてしょうがないよ。ドラゴン使いだったあの頃の血も疼く」

『戻りたいか?』
 
 
「―…いや、過去を振り返る気はないよ。僕はドラゴンブリーダーで、この子らの担任。それだけで十分さ」


 ギュナッシュは相棒に向かって柔和に微笑んだ。
 『言うと思った』フリートは面白おかしそうに笑声を漏らし、優しく相棒を見つめ返したのだった。




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あきゅろす。
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