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「―――…あっれほど保健室から出るなって言ったのに、どうして君達はそんなにも聞かん坊なのかなぁ! 最初っから今まで、そう今この瞬間まで! 現在進行形で僕の手を煩わせてからにもう!
たかだかドラゴン使いの卵の分際で、経験の積んだ魔法使いに勝てるとでも思ったのかい? まったくもう、自分の身のほどを知りなさい。
怪我をしたらどうしてたんだい…、て、アルスくん怪我してるじゃないかあぁああ! ほら言わんこっちゃない! 君達の怪我その他諸々は僕の責任になるんだよ?! 分かってるそこら辺!

子供のくせに一丁前に窃盗団のアジトに乗り込むからこんなことになるんだ。
実力も不十分、まだ【マカ】の上の魔法も使えないくせして、君達って子は!」



『……。ギュナッシュ、もういいんじゃないか。子供達も十二分に反省してる』

「いーや、今日という今日は言わせてもらうって決めてるんだ。いーっつも僕の手を煩わしてッ、無鉄砲で、能天気で」

『無事だったんだ。それに子供達を見ていると昔のお前を見ているようだぞ』
 

 子供達は担任に似たんじゃないか?
 赤いドラゴン、フリートと呼ばれたドラゴンに茶化され、ギュナッシュは大きく咳払いをする。フリートはギュナッシュのパートナードラゴンだ。

 相棒に指摘され、ギュナッシュは余計な事は言わなくてもいいから、ボソボソッと反論はするものの強くは返せないらしい。やや羞恥に頬が赤く染まっている。
 喉の調子がおかしい。わざと喉を鳴らしながら、ギュナッシュは大人しく説教を聞いて佇んでいる子供達に目を向ける。

 ちらっと上目遣いでもう許してくれないか、と視線を投げ掛けられ、ギュナッシュは大きく溜息。これが最後だと、三人にお小言を手向けた。
  

「命をもっと大事にしなさい。君達はまだまだ弱い子供なんだ。助けたかった気持ちは分かるけど、死んでしまっては元も子もない。いい? 二度としないこと」
 
 
 「はい」小声で三人が返答したため、「よし」ギュナッシュはこれで終わりだと普段見せる微笑を向けた。

 するとフォルック、恐かったとばかりにビィビィ泣き出し始める。ナーガもつられてワンワン泣き出し、このペアは助かって良かったと安堵泣き。少々説教に対する恐怖もあったのか、赤子のようにワンワンギャンギャンギャーギャー泣いている。

 
 本当によく泣くよな、このペア。

 
 アルスは憮然と肩を竦めていたが、思い出したように左隣に流し目。
 「ジランダは?」大丈夫なのかとベルトルに声を掛け、腕の中に収まって眠りについているドラゴンに視線を落とした。「随分傷付いてる」でも大丈夫だと彼は微苦笑。何度もなんども檻を破ろうとした結果がこれなのだろう、ベルトルは静かに語る。

 一呼吸置き、アルスは笑声を漏らした。

「どーしても帰りたかったんだろ。大好きなお前のもとにさ。あーあ、俺、ジランダ狙ってたのに…、入る余地もねぇーや」

 わざとらしく頭の後ろで腕を組み、「負けだ負け」おどけ口調でそっぽを向く。
 ベルトルは不機嫌顔を作った間もなく、頬を崩し、「これからだ」そっと言葉を返す。


「ジランダと、これから先の道を築き上げて行くつもりだ。アルス、俺は貴様にだけは、いや貴様とラージャにだけは負けない。絶対に」
 

 それはベルトルからの宣戦布告だった。
 チラッとアルスは好敵手を見やり、「ラージャと俺が負けるわけねぇよな」肩に乗っている相棒に声を掛ける。


「なんたって俺等、最強だもんな。お前、最強乙女ドラゴンだし」

『分かってるじゃんかー! アルス。お前も最強目指して頑張れよ、まずは魔法技術を高めろよ!』

「それがワンレベルアップするのに半月は掛かりそうなんだよな」

『この不器用! 頑張れってー!』
 

 悪のりをかまし笑声を上げているペアを恍惚に見た後、ベルトルは腕の中にいるドラゴンに目を落とす。

 まだまだ自分達はあのペアのように絆が深くない。否、深いのではなく、作ろうとしていなかったのだ。きっと解けやすい絆なのだ、自分達は。言いたいことを言い合える関係に、まずはなれるよう努力しよう。

 失うかもしれなかったドラゴンの体を撫で、ベルトルは心に誓う。
 
 手探りながらも、不恰好ながらも、自分なりの“ドラゴン使い”になろうと。
 父の教えのすべてを否定するわけではないが、教えだけでは自分の目指すドラゴンの使い手になれない。それを知ってしまったから、自分はこれから先、ジランダと何があっても歩んでいくことにしよう。文字通り、何があってもだ。




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