009
嗚呼、やはりもう…。
先程、商人が言っていたように、ジランダは殺生され、肝を取り出されてしまったのだろうか。
担任は言っていた。輩はその場でドラゴンを撲殺してしまうこともあるのだと。魔具の材料として売るために、ジランダは商人の手によって…。
「間に合わなかった…のか、俺は」
項垂れるベルトルに掛ける言葉もない。
「ベルトル」アルスはなるべく、彼の顔を見ないよう努力し、フォルックに視線を投げ掛けた。目を伏せながらも、出ようかと合図を送ってくる。間を置き、アルスはもう一度だけ探そうと目で合図。
ラージャを呼びつけると、両手が塞がっている自分に代わり、変態ドラゴン対策七つ道具の一つ、ドラゴン笛を取り出してくれるよう頼む。
『ほらよ、アルス』
「サンキュ」
アルスは笛を銜え、ゆっくりと息を送り込む。
ドラゴン笛は、ドラゴンにしか聴こえない音を奏でる笛。これにジランダが反応し、呼びかけに応えてくれたら。その想いで笛を吹く。人間には聴こえないが、ドラゴン達には聴こえているらしく、耳がぴんっとうさぎのように立つ。
(ジランダ。お前の相棒が迎えに来てくれたんだぞ。お前が大事っつってるんだぞ。出てきてくれよ)
何度もドラゴン笛を吹き、アルスは心中でジランダに呼び掛けた。
ひとりで劣等感にもう、苛まなくてもいいんだぞ。これからはベルトルも一緒に苛んでくれる筈。嬉しいことも悲しいことも半分ずつできる関係になれるというのに、やっとこれからだというのに、何もせず終わるなんて悔しいではないか。
何度吹いても結果は同じ。
アルスは諦め、ラージャに笛を抜いてくれるよう頼む。そしてベルトルに声を掛けた。「外に出るぞ」返答はないが、首は縦に振ってきたため、アルスはフォルックやラージャ、ナーガと共に垂れ幕の外に出た。
痛いほどの沈黙が皆を襲う。
「悪かったな…」
無駄骨だった、ベルトルが弱々しく謝罪を口にしてくる。
二人はやんわり否定し、間に合わなかったのだ、詫びるのこっちだと返す。つま先を来た道に向け、二人はベルトルを連れ、忍び足で来た道を戻る。沈鬱な空気が胸を重たくさせる一方だった。
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