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006



 
「父親がドラゴン使いか。それってすげぇけど、息子は大変そうだな。期待に応えなきゃいけなさそうだし」


 心中でベルトルは愕然、どうして分かるのだ。


「けどさ、結局は自分の人生だしな。俺だったら期待とかンなの、放置して暗中模索で道を探すと思う。期待の前に自分が未熟だろうし、この職は相棒で作る道だし、【マカ】の件でそれはよーく分かったしな」

『お前って不器用だから誰も期待してねぇって! …俺ちゃま以外な』

「そりゃどーも。一匹でも期待してくれる奴がいるだけで、俺は救われマース」



 ―――…。


 
 パートナーと笑い合うペアを見つめ、ベルトルは馬鹿馬鹿しい気持ちを抱いた。
 
 思わず微苦笑を漏らす。能天気な奴はいいよな、心中で毒づきながらも、今まで父の教えに背くことを恐れていた自分が阿呆らしくなった。
 かの有名なドラゴン使いの父は教えてくれた。ドラゴンを甘やかすと必ず舐められ、良きドラゴンは育たない。立派な使い手になりたければ、舐められぬ使い手となれ、と。
 父は正しいことを言っていると思っている。相棒に舐められた使い手は、使い手にすら名乗れぬ状況下に落とされるだろう。


 けれど、それだけでは駄目なのだとベルトルは思う。
 
 厳しさだけではドラゴンは応えてくれないし、本当の意味で絆など作り上げられることもできない。
 
  
 ドラゴンにだって感情と理性があるのだ。厳しさばかり突きつけられても、己の中の心を隠してしまうだけ。
 心を失くそうと努め、従順な操り人形と化してしまうだろう。少し前の自分達はそうだった。ジランダは自分の意見に対して、ただただ頷くだけのドラゴンだった。何か思うことはあれど、パートナーは心を隠していたのだ。
 
 父は立派なドラゴン使いだ。
 だから息子の自分も倣って立派なドラゴン使いにならなければならない、父の説いた教えに従わなければならない。そう思っていた。思い込んでいたのだ。

 しかし、違うのだとベルトルは知る。
 幼い頃からドラゴン使いに関連する教育を受けていた自分よりも、立派にドラゴン使いの卵として殻を破ろうとしているクラスメートがいる。教えだけがすべてじゃないのだと、ベルトルは今更ながら知るのだ。
  
 
「ベルトルくんって、そういう風に笑うんだね」


 と、フォルックに表情を指摘され、ベルトルは自分が笑っていることに気付く。
 
 「そっちの方が優しそうに見えるよ」なんて、フォルックに笑われると、不機嫌面を作る気も失せてしまった。
 「そうか」表情をそのままに、ベルトルは目尻を下げる。いつの間にか、クラスメートにだけ気の置けない気持ちを抱くようになっていた。不思議なこともあるものだ。こんなこと、今までなかったというのに。
 

「俺、ドラゴン使いの息子でも負ける気はねぇからな」

 
 アルスが自分の前で膝を折り、背に乗るよう指示してくる。
 そろそろ南門付近に到達する。降りなければ荷馬車の持ち主からとやかく言われてしまう。アルスのぶっきら棒な説明に、ベルトルは希少な一笑を漏らし、腰を上げて背に乗った。

 その際、言ってやるのだ。お節介ばかり焼くクラスメートに、好敵手に、アルスに、「その勝負受けて立ってやる」と。


「お前にだけは絶対負けない。負けてやらないさ。三流」

「そーかよ、自称一流さま」
 

 台詞には茨が巻いてあるというのに、零す笑声は限りなく純粋。
 「仲良くなっちゃって」すっごく安心してるよ、なんてフォルックの独り言は幸いな事に二人の耳には届かなかった。幸か不幸か、ドラゴン達の耳には届き、同感だとばかりに笑声を漏らしていたのは二人には秘密だ。




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