005
「ベルトル、取り敢えずラージャにパンツを見せてやれ。そしたらすべてが上手くいく」
無論、悪気はない。アルスは大真面目なのだが、ベルトルは目が点々。
パンツってなんだパンツってなんだパンツってなんだ、エンドレス状態に陥っている。
「貴様、何をふざけたことを」
「いやさ、こいつ生粋の変態なわけだ。ラージャと波長を合わすには、お前がパンツを見せるしかない。見ろ、ラージャを。パンツってだけでハァハァしてる」
グイッとアルスがベルトルの前にラージャを差し出す。
文字通り、はぁはぁはぁはぁはぁはぁ…、ベルトルは引いた。引く以外どう反応すればいいのか分からない。寧ろ引かない人間がこの世にいるのだろうか。
『パンツ見せてくれるなら…、お前と組んでもいいんだぜ!』
その代わり、ちゃんと見せろよ! パンツ大歓迎なんだぜ!
グッと指を立てるラージャに、ベルトルはもはや絶句。どうにか石化から抜け出した後、遠巻きに目前の少年を見やる。
「……。三流、まさかあの巨大な【マカ】を生み出しているのは、お前がへんたi「俺は変態じゃねえからな! 断じて変態じゃない!」
冗談じゃないとアルスは喝破し、ラージャの変態にはいつも参っているのだと苦言。
そう、まずは朝の着替えからパンツを見せろとはしゃぎだし、人間の着替えを見るのはパラダイスだと親父発言連発。昼間は昼間でオリアンと呼ばれる学校で一番恐ろしい少女に喧嘩を売り、夜は夜で風呂に喜色を見せ、風呂場を覗き見。家族の下着を盗み出そうとするわ、いきなり人の耳に息を吹きかけてくるわ、何やらかんやら、変態過ぎて毎日が乱闘だ。
どどーんと落ち込んでいるアルスに対し、『俺ちゃまは萌えを追求しているしているんだ!』ラージャは胸を張る。
こんなんでもメス、最重要ポイントなため二度言うがメス、こいつはメスドラゴンなのだからやってられない。オスではなく、メスがこんなド変態だなんて。ガックシと肩を落とすアルスに、双子の弟として心中察するとナーガ。本当に苦労に苦労を重ねているようだ。
しかし、苦労はしているもののベルトルの目からして見れば、彼等の生活は充実しており、また普段のスキンシップも取れているのだと思う。
「貴様等に些少だが、羨望を抱く」
「え? お前も俺みたいに苦労背負いたいって? んじゃ、ラージャを一日お前ン家に預けてやるって。俺の気持ち分かると思うから」
「そうじゃない」ベルトルは鼻を鳴らし、片膝に肘を置いて吐息をつく。
誰の目から見ても、ベルトルの心中には重たい悩みが渦巻いているよう。「僕は君が羨ましいけどね」フォルックは当たり障りのない会話で切り出す。
「だって、ベルトルくん。出逢った当初から、【マカ】を使えたでしょ? 僕は凄いと思ったよ。僕なんて【マカ】のマも知らなかった。なんだかベルトルくんは僕等の三歩前をいつも歩いてる気がする」
「……、歩いていて当然だろうな。俺の父親はドラゴン使いなんだからな。息子の俺はこの法律の特別免除を受けて、最初から職が決まっていた」
「へー、そりゃす…げぇええ?! なんだそりゃっ、んじゃあ、将来の明暗を分ける地獄のくじ引きをしなかったってことかよ?! 俺なんて、踊り子にでもなったらどうしようとか、兄貴と同じ医者になっちまったら昇天するとか、そんなことを思いながらくじを引いたっていうのに。
挙句、危険な職に就いちまって…、いや別に、今はドラゴン使いに思うことはないけどさ。こいつ変態だけどさ、こうしてラージャに出逢えた。感謝してるんだ」
膝に乗ってくるラージャの頭を撫で、アルスは軽く目を伏せて笑声を漏らす。
苦労や挫折も味わったけれど、同じくらいに学ぶことも多い。信頼してくれることの大切さ、それに応えるだけの気持ちの強さ、何より絆を作り上げていくことの難しさと喜びを覚えている。
アルスは相棒を前に小っ恥ずかしい台詞を重ねた。
『恥ずかしい奴だな』憮然と鼻を鳴らすラージャも満更ではなさそうだ。『そりゃ悪かったな』アルスは照れ笑いを浮かべ、軽く肩を竦めた。
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