君が笑う瞬間
* *
三人が早足で向かう先はウェレット王国南部。
南部は出店で賑わっており、特に魔薬草や秘術など道具関係が売買されている。
ベルトルの話によると、気を失う前に男達が南門付近でドラゴンを取引するような仄めかしを耳にしたそうだ。
なるほど。道具関係で賑わっている南部ならば、ドラゴンが高値で売買できるだろう。
ドラゴン盗難で喧噪としているウェレット王国だが、王国に入って来た他国の商売人と裏で取引をするとしたら、彼等が南部に拠点を置いている可能性も十二分にある。特に他国民族が街に入るには南門で通行証を見せなければならない。どちらにせよ、南門に向かう価値はあるということだ。
それに先程、担任の口から、ウェレット王国の南部に輩を見掛けたらしいと伝達が入ったと教えてくれたため、一点の曇りもなく三人は王国南部を目指す。
しかし王国は広く、徒歩では日が暮れてしまうため(三人がいる場所は王国東部)、三人は途中、通り掛った南門行きの荷馬車に乗り込んで南部を目指すことにした。積んである木箱と木箱の隙間に身を隠し、三人は揺れる荷馬車内で息を潜める。
『この速度なら、30分以内には南部に着くな。アルス。その間、作戦会議が出来るってわけだ』
ラージャのご尤もな意見に相槌を打ち、まずは目的を確認しようとアルスは皆に話を持ちかける。
「目的はジランダの奪還。窃盗団を倒すんじゃなくて、ジランダを取り戻したらトンズラ。向こうはどうやら、スッゲェやり手みたいだから。あんま戦闘にならない方がいい。それに戦闘になったとしても」
『俺ちゃま達は短時間に三発までしか撃てない。どっでかい【マカ】を三発。なにせ、アルスが不器用だからな! フルパワーで【マナ】を送ることしかできない!』
「煩い!」皆まで言われなくても分かってる、ぶすくれるアルスにフォルックとナーガは大丈夫かなと今更ながら不安を抱く。
アルス・ラージャペアは【マカ】を三発までしか撃てないし、ベルトルにはパートナーがいない。ということは必然的に自分達が戦闘の要になるというわけで…、ついて来たことを激しく後悔したのは言うまでもない。
しかし困った、アルスは自分の不器用さに眉根を寄せ、ラージャを見下ろして腕を組む。
「俺は【マナ】の配分ってのが分からないからな。ンー…あ、そうだ。ベルトル、お前、ラージャと組めないか? 俺がジランダと組んだ時みたいに、お前等もできるんじゃね?」
「え? アルスとジランダ、組んだことがあるの?」
キョトンとフォルックは首を傾げ、
『ハアアアア?! 俺ちゃま、寝耳に水だぜ?! ちょ、なんだそれー! 浮気かよー!』
相棒がいながら別の相手と組むとか、サイッテーだろ!
ぶうぶう文句垂れるラージャを宥め、「ちょっと成り行きでさ」アルスは悪い悪いと謝罪。簡単に言葉を返し、片膝を立てて木箱に背を預けているベルトルに提案。
同じことを思っていたとベルトルは返答、ラージャを見やり、できないことはないと意見。
「ただし、波長が合えばの話だがな。貴様とジランダの場合、波長と相性で【マカ】は生まれた。だが今度はどうだか」
らしくない、ベルトルが弱気な発言を零す。
「大丈夫だって」アルスはラージャの体を持ち上げ、にこやかに言葉を返した。
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