同じドラゴン使い見習いとして
「―――…幸い、打撲程度の怪我で済んでるみたいだ。打ち身は酷く、擦り傷だらけだけど大事に至ってない。アルスくん達が早く発見してくれたおかげで、二、三日程度の怪我で済みそうだよ」
此処は保健室。
シンと静まり返っている薬品臭い一室にアルスとフォルックはいた。
パートナーを膝に、スツールに腰掛け、クラスメートが横たわっているベッドで息を潜めている。
担任は保険医と会話した後、生徒達に声を掛け、怪我人の容態を説明。授業は勿論、保健室に全員顔を揃えているため中断している。
ベッドに寝かされている生徒を見やり、能面を被っているギュナッシュは重く吐息。
まさか構内に手配中の盗っ人が忍び込んでいるとは思いもよらなかった。学校だから安全、人の目がある、という安堵の気持ちの裏を掻いたのだろう。子供のドラゴンが盗み易いと知っての犯行だ。これの事態はドラゴンを所持している生徒の担任である自分に責務がある。
神妙に漏らすギュナッシュは、油断していたとした唇を噛み締め、「ジランダは窃盗団に奪われた」二人に告げる。
「さっきウェレット警衛団に連絡を入れておいたよ。ほら、フォルックくんのお父さんが勤めているあの警衛団だよ。話に寄ると、ウェレット王国の南部に輩を見掛けたらしいから、すぐに見つかると思う。あっという間に掴まえてくれる筈さ」
台詞を、二人は一抹も信用していなかった。
ベルトルほどの魔法技術の腕の持ち主が、此処までこっ酷くやられてしまったのだ。簡単に捕まるわけない。ギュナッシュの台詞は自分達を安心させるための優しい嘘だと、子供ながらに見越していた。
ギュナッシュは言う。今日から暫く、ドラゴン使いクラスは学級閉鎖だと。
学内に潜り込んでドラゴンを捕まえようとする不届き者がいる限り、安心してドラゴンを連れて来ることも、学校生活を送ることも出来ない。校長にもこれから申し入れをしてくる、暫くは自宅で待機するようギュナッシュは指示してきた。
複雑な念に駆られたが二人は何も言えず、取り敢えず生返事だけ返す。
「あの、先生。ベルトルくんは?」
フォルックの問い掛けに、「安心して」ギュナッシュは目尻を下げた。
ゲゼル家に先程連絡を入れた、自分が責任を持って送り帰す。そして二人も集団下校という形で自分が送る。担任らしい言葉に二人は一先ず安心、といったところだった。
ベルトルのことを考えると、胸が痛むがこればかりは自分達にはどうしようもない。警衛団に任せる他ないだろう。
「じゃあ、これから僕はボング校長のところに…、ベルトルくん、気付いたようだね」
ギュナッシュの言葉通り、ベルトルがゆっくりと瞼を持ち上げていた。
彼は先程から目を覚ましていたらしく、「帰らない…」会話に対し一言返し、無理やり上体を起こすとベッドから下りようとする。
「だ、駄目だよ」と涙ぐむフォルック、「寝てろって」とご尤もな意見を口にするアルス、「横になってなさい」ギュナッシュが厳しく声を掛けるが、彼にとってすべてが雑音に聞こえるらしく煩いと一蹴。
押し戻そうとする担任の手を払い、アルスやフォルックの脇を擦り抜けてベッドから下りる。
が、ダメージが大きかったのか、体重を支えられず、すぐにその場に崩れたが、這ってでも保健室を出て行こうとするため、アルスは言葉を失った。「ベルトル…」恍惚に彼を見守る中、ギュナッシュが懸命に怪我人を止めに入る。
「まさか、そんな体でジランダを取り戻そうなんて思ってるのかい、ベルトルくん。だったら君の起こそうとする行動は無謀って言うんだよ。勇敢な行動とはお世辞にも言えない。身を引くこともまた勇気だと僕は思う、ここは警衛団に任せるんだ」
「ジランダはっ、俺のパートナードラゴンだ。あいつは俺の目の前で奪われたッ…、だったら自分で取り戻すだけだ」
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