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アルスの朝


 
 
 アルス・ウリダーケは、今年で15歳になった思春期真っ只中の少年だった。


 彼の持っている夕陽の色に近い深く赤い長めの髪は、彼の性格を表しているようだ。とにかく活発的で体を動かすことが得意、そう象徴するような髪は、ところどころ寝癖がついている。

 アルスはたった今起床したばかりなのだ。

 大きな欠伸を噛み締めながら目を擦り、ぼんやりと瞬きをして、また大きな欠伸をひとつ。
 気の抜けてしまっている顔を作りながら、寝巻きのボタンを外していく。朝起きたらすぐ着替えなければイケナイとアルスの頭の中ではインプットされている。
 これは我が家の家訓のせいだ。ウリダーケの家族は、皆、朝起きてまずは着替える。だから目が冴えなくても起きたら取り敢えず着替えなければイケナイと衝動に駆られてしまうのだ。
 
 止まらない欠伸を噛み締めながら、アルスが着替えを始めようとした時、電流が走ったように目が冴えた。


 視線を感じる。

 痛いぐらいの視線。

 
 アルスは、ぎこちなく自分のベッドに目を向けた。

 自分のベッドの上には、蜥蜴のような舌を出している真っ黒な鱗を持つべビィードラゴンが期待に満ちた眼差しをアルスに向けていた。
 
 
『着替えないのか? 俺ちゃま、待ってるぞ! 遠慮は要らない! ドーンと来い!』

「っ、何故、朝になるとこいつの存在を忘れるんだ、俺……とにかく、ラージャ! お前、廊下に出てろ!」

 
 するとべビィードラゴンのラージャは、首を傾げた。 
 なんで自分が廊下に出なければいけないのだ?そういう怪訝な表情を作っている。
 刹那、溜息をついた。

『俺ちゃま、お前の裸体を見ても、どーも思わないぜ? そう俺ちゃまが求めるのは、ひとつ!』
「その求めてるモノに十二分に問題ありだ!」
『ただのパンツだぞ? 俺ちゃまが求めてるのは』
「だからっ、それが問題だっつーんだ! とにかく部屋から出ろ!」
『お前、つくづく女々しいなー……恥ずかしいのか? ま、まさか!アレか?! 穿き替えてないのか?! いくらなんでも、それは俺ちゃま引くぜ?ドン引くぜ?』
 
 
「だああああっ、腐れメスドラゴンがー! いいから、とっとと部屋から出やがれーっ!」
 
 
 アルスの怒号が部屋中に響き渡った。
 朝っぱらから騒々しい声を聞く羽目になるのは、ウリダーケの家族だ。


 またやってる、なんて欠伸を噛み締めながらウリダーケの家族はアルスと同じように着替えを始めていた。





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