004
「シーッ! シーッ!」必死に指を立てて静かにしてくれるよう頼むんだけど、タコ沢は関節を鳴らして俺を見据えてきた。「ここで会ったが百回目。今日こそ雪辱を果たす!」なんて決まり文句っぽいヤツ言ってくるけど、俺、お前と百回も会った覚えねぇぞ! 高校入学から今に至るまで、絶対百回も会ってない! っ、とか、思ってる場合じゃないっ!
関節を鳴らして迫ってくるタコ沢から、一歩、二歩後退りして踵を返した。
そしたらそこには、あっらぁー…イケメンの兄貴が立ってらっしゃるではアーリマセンか!
「ケーイーッ」
「は、はははっ。ヨウ…あー…えーっと…」
もう一度踵返したら、そこにはタコ沢。
わぁお! 田山圭太は不良に挟まれた! 目の前が真っ暗になりそうだっ!
「貴様っ、覚悟はいいかゴラァ」タコ沢がにやり笑って、「歯ァ食い縛れよ」後ろからヨウの唸り声と関節を鳴らす音が。
やばいやばいやばい、どうする俺。どうする田山圭太!
お前は今、生きるか死ぬかの瀬戸際に立ってるんだぞ! ……ええいっ、どうにでもなれー!
タコ沢が前に一歩足を出した。その瞬間、俺はタコ沢の脇をすり抜けて、
「よし! いっけーっ、タコ沢! 君に決めた!」
って、言って、ヤツの背中をドンと押した直後、
「ッ、イ゛ッデェ!」
「…ッ、ケイっ、テメ…」
Uh-oh...
なんと、俺を捕まえようとしたヨウと、背中を押したタコ沢の頭がこっつんこ。アリさんとアリさんがこっつんこ〜って、コドモの歌であるよな。あんな感じに、二人も頭をこっつんこ。実際はこっつんこ、というよりごっつんこなんだけどさ。めっちゃ痛そう。
頭を押さえてる二人に背を向けて、俺は逃げ出した。
ごめん、悪気があったわけじゃないんだ! 頭をぶつけさせようとか、そんな意図があったわけじゃないんだよぉおおお!
ただ。ただ、俺だってこれからまだまだ長い人生を楽しみたいから、生きるために必死だったんだよぉおおおお! 不良に喧嘩売るつもりなんて毛頭無かったんだよぉおおお!
勿論、二人に俺の心の嘆きなんて聞こえる筈もなく、「テメッ待ちやがれ!」「ケーイ! 貴様ぁああ!」容赦なく怒声を浴びせてきた。マジ泣きたい!
その後、「タコ沢邪魔だテメェエ!」ヨウの怒号と、「なんで俺が殴られる?!」タコ沢の悲鳴に近い声が聞こえてきた。ごめん、タコ沢っ、でも後は任せた!
廊下に付いてるスピーカーからチャイム音が聞こえてきた。
休み時間終わり、そして授業始まりの合図。勿論、教室に戻る筈もなかった。
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