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舎弟は倦怠期




【倦怠期】 けんたい‐き

飽きて嫌になる時期のこと。主に夫婦や恋人の間柄を指す。
 
 
 広辞苑にはそんなことをつらつら綴られているけれど、倦怠期はダチ同士の間柄にも芽生える物じゃないか。俺はそう思って仕方が無い。
 

 例えば、毎日まいにち同じ面子と過ごすとする。


 最初こそ手前の日常を刺激されるダチに巡り会えたとか、なんとか言って馬鹿騒ぎするんだけど、その内相手と親密になり、段々と日常がマンネリ化していく。ダチ同士でそんな経験ってねぇか? 似たり寄ったりの会話になっちまうっつーか、他の刺激が欲しくなるっつーか、たまには別の相手が欲しいって思う時。
 俺みてぇな賑やかスキーは常々刺激を求める馬鹿だから、そういうマンネリ化現象によく陥っていた。

 じゃあ今、俺は倦怠期に差し掛かったか?
 
 んにゃ、べつだん俺は倦怠期に入っちゃねぇ。
 
 俺のダチへ倦怠期は中学時代の日賀野達との分裂事件以降、一度たりともやって来ちゃねぇんだ。あいつ等と対峙しているってのもあるし、マンネリ化になる前にちょくちょく私情の喧嘩をしているせいだと思う。
 今日(こんにち)まで倦怠期っつー倦怠期は訪れちゃねえ。
 
 だが俺の周りで倦怠期に入ったんじゃねえかって疑念する仲間がいる。
 


「ごめん。今日もパスするよ」
 

 
 ―――…倦怠期に入っているのは、俺の舎弟だ。


 
 ◇ ◇ ◇


 これは随分前。
 それこそケイを舎弟にし立ての頃の俺とワタルの会話。


「ヨウちゃーん。どうしてケイちゃーんなんて地味子を舎弟にしたのんさま? 意味不明っぽ!」

「なんでって勿論オモレェからだよ。ま、舎弟にしたところでどうってことねぇ話だけどな。あいつがオモレェから舎弟にした。そんだけだ」

「ってことは、飽きたら解消するつもりんこ?」

「そりゃそうだろ。おもろくねぇ奴を舎弟にしても楽しくねぇじゃんか。飽きたら解消するつもりだぜ、俺。舎兄弟ってものがどんなものか知りたかったってのもあるし…、不思議と地味な奴と喋って気が合ったからな。あいつを引き込んだら楽しくなりそうな気ィするじゃん」

「あーあーあー。ヨウちゃんの都合で振り回されるケイちゃーんカワイソカワウソ。途中で逃げちゃうかもよんさま?」
 
 
「いいって。その時はその時、また楽しいことを探せばいいさ」
  
 
 当時の俺は楽しいことがあればそれでいいと思っていたバカヤロウ。
 舎兄弟がどんなものか分からなくて、適当にオモシレェと目をつけたケイを無理やり舎弟にした。それまでの俺はおとなしめな奴とはあんまり関わったことがなく、関わっても面白くねぇシケ込んだ奴等だって決め込んでいた。
 
 だからケイみたいな地味だけど、一皮剥けばノリの良い奴に巡り会えたこと。んでもって気が合ったことに感動を覚えた。
 地味のくせしてこんなにオモレェ奴もいるのか、マジか、もっと関わってみてぇ!

 そんな思いつき行動でケイを舎弟にした俺。
 今じゃ考えられないけど、ケイが楽しくねぇ奴だったらすぐに解消するつもりだった。楽しくない奴と舎兄弟を結んでも、毎日が腐っていくだけ。楽しくなかったらすぐにでも解消して仲間達に「気ィ合わなかった」と笑い話にしよう。

 なんて…、思っていた。
 
 あの当時の俺をぶっ飛ばしてやりてぇと、今の俺は思うわけだ。
 ほんっとロクでもねぇことを考えていたよな。
 



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あきゅろす。
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