002
「シズ、明日一緒に遊ばないか? 俺、実は明日ひとりで映画見に行ったり、買い物に行く予定でさ。どーせ、ひとりで行く予定だったから、予定を変えてもいいし。一緒に食べに行こッ、うわを!」
前触れも無しに両手で俺の右手を掴んできた。
驚いて素っ頓狂な声を出す俺に対し、シズは目をキラキラと子供のように輝かせて見つめてくる。さっきまでションボリと落ち込んでいた顔は何処にもない。ついでにいつも作っている眠そうな顔もしていない。オーラに花を散らしながら、俺の手をギュッと握り締めてくる。
「ケイは…、真の友達だな」
真の友達って、大袈裟な。
シズと友達になる一番の有効的手段って食べ物関係だよな。こんなにも喜んじまって。…シズ、大食いだってーのに、俺、大丈夫かよ。胸焼けフラグが既に立ってるんだけど。
シズは俺の映画と買い物に付き合ってくれるって言ってくれた。
映画は俺の趣味だから別の日でもいいって言ったんだけど、シズ自身もテレビ宣伝で興味はあったらしい。海のレスキュー隊の映画。
「なら良かった」俺はシズと待ち合わせ場所・時間を決める。
なんか、不良とまともに遊ぶ約束するって不思議な気分だぜ。何度かプライベートで遊んだりしてるけど、やっぱ不思議な気分。地味と不良が遊ぶ約束だなんて、なあ?
「んじゃあ、確認だけど、九時半に駅で待ち合わせな。映画は十時半からだから。映画観て、買い物して、最後に食いに行く…で、いいか?」
「ああ…。それで構わない」
「ケーイーさん! 何処かに行くんっスか?!」
と、丁度三階に上がって来たのはキヨタ、それにヨウだった。
いつもキヨタと一緒にいるモトはまだゲームに熱中しているようだ。さすがゲーマー。
俺のことをなーんでか知らないけど慕い始めたキヨタは、俺等の話を少しばかり聞いたしまったらしい。目を爛々させながら俺に駆け寄って来る。目が語ってる、良ければ自分も連れてって欲しいって。
でも確か、キヨタ…、シズのデザートの食い放題の誘い、断ったらしいよな。
まあ一応、言ってみるか。
「明日、シズと一緒に映画と買い物とデザート食い放題に行く予定なんだ」
「うぇええ! ケイさん、デザート食い放題に行くんっスか! し、知らなかったー…。しかも映画…、買い物っ、うぅうううっ、ケイさんが行くって知ってれば、俺っちも、俺っちも、おれっちもぉおお!」
あー…、断ったことを心底後悔しているらしい。キヨタは頭を抱えて悶絶し始めた。
余所で話を聞いたヨウが、「それ楽しそうじゃねえか」って指を鳴らし、自分も行くって言い始めた。
するとシズがぶっすーっと脹れる。一旦は誘い、断ったくせに…、恨めしそうに言うシズに、ヨウはどこ吹く風で笑う。
「だって映画や買い物にも行くんだろ? 俺、てっきり食い放題だけだって思ってたからさ。そういう予定なら、俺も行きてぇ」
「食い放題の何が悪い…」
「悪い悪い。拗ねるなってシズ。だって考えてもみろよ。野郎だけでデザート食い放題…、サブくね? でもまあ、今回は楽しそうだし、シズに付き合ってやるから」
「あと三回、自分に付き合うなら…、来い」
「なんだその条件。って、ンなに睨むなって。わぁーったわぁーったよ、ケイが行くなら俺も行くから」
ちょ、なんで俺が巻き込まれてるんだよ。
いや、どっちにしろ、俺はシズにいつだってお誘いに乗ってくれる組に入ってるんだけどさ!
ヨウが行くってことを決めて、キヨタはますます悶絶。行こうか行かないどこうか考えているらしい。多分、キヨタはモトの被害話を嫌って聞かされてるんだろうな。顔を顰めてる。モト、結構なまでにシズにデザート食べ放題連れ回されてるみたいだから、その愚痴をキヨタにぶつけているに違いない。
でも俺をチラって見てくるし…、あー、もう面倒な奴だな。
分かった、分かったよ、キヨタに聞けばいいんだろ! キヨタ自身も望んでるみたいだしな。俺は仕方が無しにキヨタに聞いた。
「キヨタは行かないのか? 予定ないなら一緒に行かないか?」
「行くっス! ケイさんが誘ってくれるなんてッ、俺っち、大感激です!」
いっちゃん最初に誘ったのはシズってことを忘れるなよ、キヨタ。
お前もヨウと同じように、三回はデザート食い放題に行かなきゃなんねぇんだからな?
と、まあまあ、こんな騒動はあったけど、こうして俺は不良達と日曜日に遊ぶ約束をしたのだった。
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