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「みんな…、ツレない」


 

 その日、いつものように学校を終えた俺はゲーセンにいた。
 

 小遣い日を迎えている上に、ちょっと母さんの手伝いをして懐に潤いがあったからゲーセンに着くや否や二階の格ゲーに勤しんでいた。
 最初はモトやキヨタと結構盛り上がってたんだけど、途中で飽きちまって。モトやキヨタは別の種類のゲーム機に足を運んでたし、俺は俺で金を大切に使いたいから早めに切り上げて三階に戻ることにしたんだけど、そこで俺は異様な光景を見つけた。

 今日は女性群が来てないから野郎だけなんだけど(三人でファミレス行ったんだって)、三階フロア隅でションボリと肩を落としている不良を発見した。
 水色という奇抜な色をした髪が力なく垂れてるその不良は、いつもグースカグースカと昼寝をしている奴。シズだった。
 
 なんか凄い落ち込んでるようで、取り巻くオーラがどんよりと重い。

 はぁ…、溜息をついて悶々としているシズはスロットマシーンに備え付けられている椅子に腰掛けている。

 こういう時、そっとしておくのも一つの手なんだろうけど、声を掛けるのもまた一つの手だと思う。他に人もいないみたいだしな。

 あんなに落ち込んでちゃ不良が恐いとかないし。

 
 「シズ」俺はなるべく明るくシズに声を掛けて歩み寄った。
 「ケイ…?」シズがうつらうつらと顔を上げてくる。見るからに落ち込んでますオーラが放たれていた。俺はシズの隣の椅子に腰掛けて、「元気ないな」努めて明るく声を掛ける。
   

「どうしたんだよ。なんかシズらしくないじゃん。ヤなことでもあったのか? あ、話したくなかったらいいんだけど」

「…いや…気を遣わせて悪いな…。少しばかり…、悲しい気持ちが…あってな。皆…に…、ことごとく…逃げられるし」


 逃げられる?
 俺は首を傾げた。シズは重々しく溜息をついてポツリと呟いた。期間限定のレモンミルフィーユって。

 …なんか、その時点で俺、シズに声を掛けるの失敗した気がするんだけど。
 んでもって災難が降りかかってきそうな気がするんだけど。


「実は…、自分の知っているデザート食べ放題をしているカフェ…、レモンミルフィーユ…美味いらしいんだが…、期間限定の上、明日までなんだ」
 

 ひとりで食べ放題は少し恥ずかしいから響子達を誘ってみたが…、女性組は三人揃って明日、遠出するらしい。ヨウやモト、ワタル、ハジメ、キヨタ、誰を誘っても…、逃げられ…。
 じゃあ、単品で買えばいいと思うかもしれないが…、食べ放題メニューでしかそれは置いていないんだ。
 いつもならばモトを用意に捕まえて引き摺っていくのだが、今回は見事に失敗した。


 自分はこのまま…レモンミルフィーユを逃すのだろうか。



 そう思うと切なさがドッとと襲ってきたんだ。

 
 
 淡々と語るシズが俺にチラッと視線を向けてきた。

 おいおいおい、その目、俺を誘ってるんじゃないだろうな。ああ、誘ってるな。誘ってるよな?

 「予定あるか?」なんて質問されて、「えーっと」俺は言葉を詰まらせる。実は明日、映画を観る予定だったんだよな。俺、映画館によくひとりで行って観に行くタイプだからさ(友達とも行くけど)、最近話題の邦画、海のレスキュー隊映画を観る予定だったんだけど。
 んでもって予約していたゲームを買いに行く予定だったんだけど。
 
 俺の態度に、「やっぱり駄目か」シズはションボリのションボリ。
 な、なんか俺が苛めたみたいじゃないか。そんなに落ち込まないでくれよ、シズ。良心が痛むぞ!

 で、俺は咄嗟に言っちまう。

 俺自身が後悔するって分かっておいても、シズに言っちまう。
 



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