009
こ、これは予想以上に辛いぞ。条件&罰付きジャンケンゲーム。
なんかシズの方が罰ゲームを受けてるみたいで、目を白黒させながら途方に暮れている。必死に笑いを噛み殺しているワタルさんの隣で、俺はモトにこっそり耳打ちした。
(やばくないか…このゲーム)
(オレも思ってた…。ココロには悪いけどし始まったバッカだけど、これ以上続行するのは危険だぜ! マジ、オレ達もココロみたッ…あ、響子さんジャン!)
ガタガタ震えながら、モトが前方を指差す。
ぎこちなく首を動かせば、煙草を買いに戻って来た響子さんが仁王立ちしていた。体を微動させて関節を鳴らしている。見据えているのは立ち尽くしているシズ。
どうやら一部始終、様子をご覧になっていたご様子。こめかみに青筋が立っている。
「シズ…あんた、ココロに何したんだ? 天真爛漫なココロがあんな馬鹿げた発言するわけねぇっ…まっさか手ぇ出したんじゃなかろうな? あ゛ーん?」
一歩一歩、確実に響子さんはシズを追い詰めている。シズは心なしか焦っているようだった。
「響子…落ち着こう…、暴力は駄目だ…」
「喧しいッ。これだから男っつー生き物はッ、いっぺんその根性を叩きなおす」
あああっ! 早く止めないとっ、このままじゃシズが響子さんの拳にッ。
「きょ…響子…、待て…自分にも何が何だか」
「シズッ! あんた、歯ぁああ食い縛れぇえええ!」
バシンッ―――……。
「―――…なーんだ、ただの罰ゲームか。焦った。ココロがらしくねぇこと言うから、シズに襲われたのかと思った」
「響子…。まず、自分に何か言うことはないのか」
赤々と腫れた右頬を擦りながらシズは恨めしそうに響子さんを睨んだ。
「悪い悪い」豪快に笑う響子さんは悪びれた様子もなく片手を上げて謝罪。殴られ損だとシズは大きく溜息をついた。
恥ずかしそうに身を小さくしているのは女子トイレから出てきたココロ。「すみません…」消えそうな声でシズに謝罪している。
気にしていないと肩を竦めシズは頬を擦っていた。何処となく安堵の色が見え隠れしている。
そりゃな…あんな風に言われちゃ、焦るよな。シズ、罰ゲームだって聞いてすっげぇ安心した顔を作ってる。
余所でワタルさんは大笑い。ヒィヒィ腹を抱えて膝を叩いている。
「あ、あの時のシズちゃーんの顔ったらっ、ぶふッ、まんまマヌケ! マヌケりんこっ!」
……笑い過ぎだって、ワタルさん。
あんまりにも笑うもんだから、シズの片眉がグイって大きくつり上げてるし。
「元凶はお前の考えたゲームだッ」悔しそうに唸ってるけど、ワタルさんはお構いなし。目尻に溜まった涙を拭いてはシズの顔を見て大笑い。今のワタルさんなら箸が転がっても笑いそうだな。
「けど、ま。楽しそうじゃねえか。うちもやりてぇ。たまにはゲーセン以外のゲームっつーのも悪くないしな」
響子さんが恐怖の条件&罰付きジャンケンゲームへの参加意欲をみせた。
マジですか、響子さん! 危険ですよ、このゲーム! てか、もうやめましょうよ! 俺、ココロみたいな被害者にはなりたくない!
「…自分も参加する。やられてばかり…は…性に合わない」
ちょっ、シズまで…。
やられてばかりって、もしかしてワタルさんに笑われたこと、根に持ったのか。あ、その表情は根に持ったな。持っちまったんだな。
だけど俺はやりたくねぇーよ…、二人が参加するなら尚更、イチ抜けしてぇ。してぇよ。
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