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歩道橋の下



 
 * *
 

 まだ日本に来たてだった頃だろうか。
 
 
 日本という土地に慣れていなかったネイリーは、自分の足であちらこちら自分の住む土地を探索していた。車を使うより自分の足で土地を見て回った方が、絶対に住む土地を覚えると思っていたのだ。
 ネイリーは日々、自分の足で自分の住む区域を歩き回った。

 迷うことも沢山あったが、それはそれで楽しい冒険と思っていた。

 そんなネイリーが、みずほに出逢う横断歩道橋を通り掛ったのは本当にたまたまだった。
 みずぼらしい歩道橋を渡って自分の家に帰ろうと、歩道橋の階段を上っていた。


「フウム。日本という国は、まだまだ不慣れな土地だな」

 
 ドイツと違って何処か住み難いような気がする。
 慣れていないせいだろうか。

 まだ当分は慣れないだろうな、とネイリーが思いながら歩道橋の階段を上ってしまう。

 ふと、ネイリーが手摺に足を掛け涙を流している女性を見つけた。蒼白な顔色をしている女性は身を乗り出している。具合でも悪いのだろうか? いや、違う…様子がおかしい。
 まさか、とネイリーは下の道路を見下ろした。


 此処から飛び下りでもしたら、アスファルトに叩きつけられるどころか、車に轢かれてしまうではないか!


 ネイリーは咄嗟に駆け出すと今にも飛び下りそうな女性の手首を掴んだ。

「君ッ、待ちたまえ!」
「放してッ、下さい! 私ッ……わたしッ!」
「此処から飛び下りる気かい?! そんな馬鹿なことヤメたまえ!」
「放っといて下さい! 貴方には関係ないでしょ!」

 「死にたいの!」叫ぶ女性に、ネイリーは聞き分けの無い女性だなと思った。
 本当に飛び下りたいのか、必死にネイリーの手を引っ掻いて放させようとするものだからネイリーは困った。

 周囲の視線がこちらに集まってくる。
 半狂乱で叫びまくる女性の様子に「まさか」という声も聞こえてくる。誰が見ても女性の起こす行動が分かる。


 しかし、止めようとしない。関わりたくないのだろう。


 ネイリーはもうひとりぐらい手助けしてくれても良いのではないか?と思いながら、女性を説得する。


「早まるな! 僕の言うこと分かるかね?!」
「お願いッ、行かせて! 私にはもう、何も残ってないのッ!最愛の人にッ、死なれて、もうッ」
「ダメだ! 生きなければ!」
「貴方に何が分かるの?! 最愛の人に死なれた私のッ!」
「分かるぞ! 分かるから言うのだよ! 死んではダメだと!」
「分からないくせにッ! 同情しないでよ!」
 
 思い切りネイリーの手を引っ掻きながら涙を流す女性。
 ネイリーは埒が明かないと踏んで、女性に「失礼」とヒトコト声を掛けると女性の身体を担ぎ上げた。

 驚く女性に対し、ネイリーは「さあ、これから僕と熱いデートだな!」と明るく笑って周囲の視線を蹴散らすと歩道橋を渡って行った。


 日は静かに傾いていた。





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あきゅろす。
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