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拝啓、天国にいるじじ上


   

 拝啓、天国にいるじじ上。
 
 
 元気にしてっか。ばば上と一緒に毎日を過ごしているか。
 俺、鬼夜螺月は元気だ。毎日柚蘭とどうにかやってる。いや、柚蘭と菜月でどうにか毎日を乗り切ってるよ。
 
 あ、今、驚いてるだろ?
 だって柚蘭と俺等のことを至極嫌ってる菜月とで毎日を過ごしてるんだもんな。じじ上の驚く顔が目に浮かぶ。今、菜月とも仲良く暮らしてるよ。ほんとだぞ?


 なあ、じじ上。
 
 俺さ、今すげぇ幸せな道を歩もうとしてるんだと思う。柚蘭ともよく話してるんだ。俺等、遠回りバッカしてきたけどこれからは幸せになれるんじゃないかって。
 あれだけ俺等を嫌ってた菜月が最近、心を、素顔を見せてくれるようになったんだ。まだまだ兄姉っちゃ認めてくれねぇけど、家族とも見てくれてねぇけど、あいつは俺等一個人を空いてくれ始めている。結構仲良くして暮らしてるんだ。

 色々あったけど、今じゃあいつ、俺等に笑顔も見せてくれるようになったよ。



 俺の報告、聞いてくれるか―?

 長くなるけど、俺等の日常も交えながら話したいと思う。

 

 * *
 
 

 ―聖界西区(ウエスト・ブロック)― 
 
  
 
 西大聖堂。

 夕暮れの刻、礼拝堂で祈りを済ませた鬼夜螺月は颯爽と回廊に出た。持ち前の金糸を西日に照らしながら歩く天使の表情は硬く、周囲に一切気を許していない刺々しいオーラを纏っていた。
 
 「あ…」螺月は不意に聞こえてくる賛美歌に声を漏らす。
 音程の違う声音たちが何重層となり、大聖堂を満たす。高い澄んだ声音から低い重量感のある声音まで、幅広く聞こえてくる声が一つの歌声と化す。大聖堂の隅々まで歌声が行き届くような響きだ。
 表情の硬い天使は擦れ違う天使達に目もくれず、賛美歌に耳を傾けながら大聖堂の出口へと向かった。

 途中、聖堂で勉学を学んでいたであろう四天守護家鬼夜の天使が脇を通り過ぎる。
 
 二人の天使が仲良く駄弁りながら帰宅していた。姉弟だろう。夕飯の話題をあげながら和気藹々と談笑している。少し前の螺月であれば、胸を締め付けられるような思いで見ていたのだろうが、今の螺月はただただ微笑ましく見つめるだけ。
 「仲が良いな」軽く綻んで出口へ足を向けていると、通行人が興奮したように自分の脇を通り過ぎて背後にいた聖人に話し掛ける。
  
  
「おい、聖保安部隊が異例子を此処に連れて来てるそうだな! 見たか?」

「いや見てないけど…、マジかそれ?」
 
 
 螺月は思わず足を止める。
 
 異例子が此処(大聖堂)にいるだと? またあいつ等、勝手に身内の承諾なしに尋問をしているのか。報告もなしとはどういうことだ。
 ギリッと奥歯を噛み締め、螺月は聖保安第五隊部部署がある棟へと駆け足で向かった。硬い表情から一変、ドドド不機嫌な顔を作り、螺月は風を切って走った。異例子もとより弟の一大事だった。
 
 
 螺旋階段を駆け上り、回廊を駆け抜け、螺月はノックも無しに聖保安第五隊部部署に駆け込む。
 
 「何だ?」ノックもしないとは無礼な。誰だと中にいた聖保安部隊が怪訝な顔を作ってるが、螺月の顔を見るや否や一変。
 慌てて敬礼をし、何か御用かと尋ねてくる。が、相手は何故、自分が此処に来たのか分かった様子だった。チラッと部屋の隅に目を向けている。螺月が其方に目を向ければ、吐きそうだと呻き身を震わせ怯え切っている弟の姿。

 弟は“聖の罰”を受けたせいで聖堂にトラウマを抱いていると聞いた。
 情報どおり、蒼白な顔をして怯えている。長居は無用だろう。螺月は整った眉をつり上げ、「帰る」聖保安部隊天使に吐き捨て、具合の悪そうな弟の元に歩み寄る。「あれ螺月?」うつらうつら見上げてくる弟を背に乗せ、「もう大丈夫だ」声を掛けて部屋を出て行く。

 聖保安部隊は血相を変え、困りますと意見してきた。
 今、隊長と副隊長が留守にしている。せめて二人が戻って来てから連れて帰って欲しい。懇願してくるが、螺月は素知らぬ顔で言う。

 
「尋問の場合は俺等に前もって報告してからするって決めただろ。破ったのはそっちだ。じゃあ、俺も約束を破らせてもらう」
 
  
 螺月は鼻を鳴らし、弟を背負いなおして歩き始めた。止める声は得意のスルーで聞き流した。




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あきゅろす。
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