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 ―――…上手くいき過ぎて恐いくらいだ。こんなに幸せで大丈夫なのだろうか。罰でもあったってしまいそうだ。

 
  
 就寝前、螺月は自室に入ろうとする柚蘭にこの話をした。

 こんなに上手くいってもいいのだろうか、あまりにも幸せになる時期が早過ぎて末恐ろしいのだが、と。


 すると姉は笑って自分の肩を叩いた。まだまだ問題は山積みではないか。
 それに自分達は周囲からさめざめとした空気をいつも当てられていた。不幸慣れしてしまっている。螺月は幸せに怖じているのだ。柚蘭はそう指摘した。螺月は納得する。幸せ慣れしていない故に怖じてしまっているのだ。

「私達、遠回りばかりしてたから…、私も実は少し恐いと思ってるわ。今の日常。上手くいき過ぎて壊れるのが恐いもの」

 「でももっと幸せにならなきゃ」姉に言われ、螺月は頷き、小さく笑みを浮かべた。
 今まで散々苦労してきたのだ。今度はうんと幸せになってやらなければ。周囲が妬んでしまうほど。今の日常を大切にしよう。
 

 挨拶を交わし、螺月は姉と別れて自室に向かう。

 途中、足を止めて弟の部屋を訪れる。音を立てぬよう扉を開けると、蝋燭に火が見えた。
 まだ起きているのだろうか? いや、ベッドの上には無防備な顔で寝ている弟がいた。本を読んでいる最中、眠りこけてしまったのだろう。手には開きっ放しの本が今にも滑り落ちそうだ。

 「ったく」螺月は忍び足で部屋に入る。
 
 開きっ放しの本を閉じてベッドサイドに置くと、腹に掛けているだけの毛布を胸上まで引き上げてやる。頭に手を置いても起きる気配はない。小さな寝息を立て、夢路を歩いている。
 

「やっぱまだまだガキだな、てめぇは。…一々世話を掛かる弟だよ」
  
 
 明日、菜月はまた聖堂に行かなければならない。

 トラウマである聖堂に行くことが、菜月にとってどれほど苦痛か、螺月には想像も付かない。
 ただ一つ、分かることがある。弟にとってただの聖堂が大きなトラウマになるほど“聖の罰”は過酷で辛酸味わうものなのだ。弟にとって、やはり聖界は住み難いし生き難い。変わらない現状だ。

 「大丈夫だからな」螺月は弟に声を掛ける。
 どんなことがあっても守るから、約束する。軽く頭を撫でると、螺月は燭台の蝋燭の火を吹き消し、燭台を机に移動させて部屋から出て行く。その際、振り返り、小さな寝息を立てている弟に言う。



「おやすみ。また明日な」
 
 




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