014
螺月はその日の夜、祖父宛に手紙を書いた。
届かぬ手紙だが、現状報告をするため、丁寧に一文一文言葉を綴って手紙を書くと封筒に入れた。
そしてそれを持って外に出る。
魔法が使える家の敷地外にまで出ると、手紙に魔法陣を召喚し、瞬く星空に向かって思い切り投げる。
宙に舞う手紙は魔法陣の発動により、瞬く間に炎に包まれた。手紙の一文には下記のことが綴られている。
“じじ上、俺さ、今だから言えるんだけど。
少しだけ、菜月と同居することに自信がなかったんだ。
あいつ、俺達を憎んでるから、毎日のようにあいつの憎悪を受け止められるかどうか、不安で堪らなかったんだ。菜月は物心付いた時から俺等の憎悪を受け止めてたってーのにな。
でも、今は同居生活にも自信がついた。
まだまだ問題は山積みだけど、あいつとぶつかっていくことで、あいつに俺等の気持ち、伝わっていくんだって知ったから。
現に菜月は今の俺等と、普通に接してくれるようになった。
改めて聖界で生きていく気持ちも持ち始めてくれた。
入院している母上と菜月のこと。
これからどーしていこっかなぁって…、頭は痛めるけど、焦らずいこうと思う。
まずは菜月に兄弟って認めてもらうことからだよな。
じじ上、俺、今、すげぇ幸せなんだって思える。
俺等、遠回りバッカしてきたけど、これからはもっと幸せになれるんじゃないかって信じてる。”
「頑張っていくよ、じじ上。何があっても俺等、負けやしねぇから」
手紙の燃えかすが風に攫われていく。
風がきっと手紙の内容を祖父のところまで運んでくれるだろう。
螺月は軽く目を閉じ、今しばらく微風を感じることにする。
待っている明日が、自分達兄姉弟(きょうだい)にとって幸のあるものだと信じながら、いつまでも風に当たっていた。
それは、聖界全土が揺れる“北大聖堂事件”が起こる十日前の夜のことだった。
End
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