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007



  
 “何でも屋”から出たネイリーはみずほと共に街を歩いていた。
 羽柴みずほの、彼女の行きたい場所。ネイリーには何となく分かった。


 だからあえて、何処に行きたいのか? とみずほに聞かなかった。


 隣に並ぶみずほを一瞥して、ネイリーはフッと笑う。


「本当に変わったな。みずほくん。どんな女性でも覚えているこの僕でさえ、君が分からなかったよ」
「そうですね。私自身でさえ、変わったなぁと思いますよ」
「髪形が変わったし、よく笑うようになった。前以上に明るくなって、また一段と素敵な女性になったな。惚れてしまいそうさ!」
「いえ、そんな……ネイリーさんの素敵さには敵いません」
  
 頬を紅潮させるみずほにネイリーは「そんなことないぞ」と笑った。
 お世辞がお上手だと口ごもっているみずほに微笑していると、みずほが見えてきましたと誤魔化すようにある場所を小さく指差す。
 
 指差したのは横断歩道橋。
 クリーム色のペンキで塗られている歩道橋は、ところどころペンキがはげかけている。他者から見ればみずぼらしい歩道橋。
 

 しかし、みずほとネイリーから見たら思い出の歩道橋だ。


 ゆっくりと歩道橋の階段を上り、歩道を歩く。
 真ん中付近に来た時、2人は立ち止まって手摺越しから風景を眺める。


「思い出しますね。ネイリーさん。此処で出逢ったこと」
「君は此処で泣いていたな」

「ええ。それでころか、私は此処で飛び下りようとしてました。ネイリーさんがたまたま通り掛って止めてくれなかったら……迷うことなく私は飛び下りていたでしょうね。運が悪ければ死んでいた」

「ゾッとしたよ。手摺に足を掛けているみずほくんを見た時は」
「本当は死ぬ筈だったんですけどね。あの頃の私は、何もかも投げ出していた。私自身も、現実も……生きることも」


 明るく言うみずほが髪を耳に掛けて、道路を走っている車たちに目を細めた。
 ネイリーは目を閉じて、そのことを思い出す。

 この場所、横断歩道橋でみずほは死ぬ筈だった。 
 みずほが此処で飛び下りようとしていたところを、たまたま自分が通り掛った。
 

 それは本当に偶然な出来事だった。





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あきゅろす。
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