011
「三角関係だったら、ひとりは絶対報われないよね。それって悲しいよ。しかもやっぱり兄弟って枠があるし…、三角関係は…じゃあ、皆が報われるのって…、ん? 皆、報われない可能性も? …ううっ、頭が痛くなってきた。まず兄弟って時点で背徳じゃ…。背徳なんじゃ」
分からない、昼ドラ的恋愛が分からなくなってきた。
頭を抱える菜月に螺月はあたふたと声を掛ける。
「あああぁあ! 菜月、深く考える話じゃねえぞ! これはオトナの話だ! コドモのてめぇにはまだ早い、てか、深く考えちゃいけねぇ! まず例え話だし、俺等って時点でアウトだアウト! 柚蘭、てめぇもそんな話出すなって!」
「女の子ってスリリングな恋愛が好きなのよ。経験したいって思わないけど、興味はあるものなんだと思うわ」
いや、そういう問題でもねぇ。
あからさま状況を楽しんでいる姉に溜息をつき、螺月は話題を変えることにした。その前に菜月が「あ、」と手を叩いた。
「ねえ、昼ドラ的ドロドロ恋愛話で思い出したんだけど、俺、ドラマを観ててさ。あ、ドラマって人間界のテレビのお話の総称の一つね。ドラマの中で、どーしても分からない台詞があったんだよね」
……あまり好い予感はしないのだが。
螺月が恐る恐るどういう台詞かと聞けば、菜月がうーんと思い出しながら台詞を紡ぐ。
「『あそこの連込み宿で一泊しないか?』って男の人が聞くんだけど、『そ、そんな…』女の人が凄く恥ずかしがるんだよね。何でかなー? って聞いてみても、誰も教えてくれなくて。連込み宿って何だと思う? 普通の宿じゃないの?」
嗚呼、やっぱり悪い予感は的中した。
「なんで、そんな不埒な単語知ってるんだよ」テレビってヤツは悪影響なのか、そうなのか。至らん知識、覚えてきやがって。オイオイシクシク落ち込んでいる螺月に対し、柚蘭は笑顔で作業を再開していた。
二人の様子に首を傾げる菜月は再度、普通の宿じゃないのかと尋ねる。
「それでさ、連込み宿に入ると悲鳴みたいな女の人の声が聞「あああああああっ、聞こえない。俺は何も聞いてない。何も聞いちゃない! 菜月、てめぇはもうテレビっての観るの禁止だ! これ以上、俺を泣かすな! 落ち込ませるな! 地獄に落とすな!」
やっぱり菜月に一人暮らしをさせるんじゃなかったんだ! 人間界で一人暮らしをさせたせいで…っ、俺、弟を至らん道に進めてしまったんだ。
嗚呼…じじ上、悪い。
俺がしっかりしてないばかりに。合わす顔もねぇ。俺、兄貴のクセに、兄貴のクセに…。
頭を抱え、うんうん呻く螺月に、「もしもーし」菜月は声を掛けるが応答がない。
「放っておいていいのよ」柚蘭は暫くそっとしておいてやれと微笑む。この状況を作り出した原因は柚蘭他ならないのは言うまでもないだろう。
和気藹々と談笑で時間を潰し、揃って昼食を取った後、再び各々の時間を取り始める。
柚蘭は裁縫の続きをしていたし、菜月は小鬼の遊び相手をしていたし、螺月は体を動かすために家の敷地外に出ていた。穏やかな昼下がりを各々楽しんでいた。
三時過ぎになると、螺月は家の敷地内に戻った。
掻いた汗を流すべく浴室で水浴び、着替えを済ませてリビングキッチンに入る。しかしそこには誰もいない。「ん?」なんで誰もいないんだ。小物入れを作っていた柚蘭は此処いてもいい筈なのに。首を傾げながら廊下に出ると、柚蘭の部屋の方から二つの声が聞こえた。
ああ、柚蘭の部屋にいるのか。
螺月が柚蘭の部屋を訪れると、二人はやはり部屋にいた。菜月が姉の部屋を訪れているなんて珍しい。片隅で思いながら、扉を閉め、何をしていたのかと尋ねる。ベッドに腰掛けて地図帳を開いている菜月が、「聖界の地形を教えてもらってるんだ」と返答。
あの聖界嫌いな菜月が聖界の地形を?
心底驚く螺月だが、菜月は綻びながら地図帳に目を落とした。
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