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005


 
 さてさて、漸く食事の時間になったのだが、これまた菜月が一緒に食べたくないと捻くれた一面を見せてくれた。
 
 どうにか食卓へ着かせたものの、まったく食べようとせず、取り敢えず一緒のテーブルに着いてくれただけでも儲けものかと二人は先に食事を開始。菜月がいつ食事をしてくれるのか様子見することにした。
 菜月は食べたそうにしているものの、自分達の目があるからなのか、片意地張って食べようとしない。

 結局自分達が食べ終わった頃、菜月の腹の虫が鳴り、観念してフォークを手に取ってくれた。やはり空腹に勝てなかったのだろう。
 微笑ましくも弟の食べる様子を見つつ、螺月は姉と談笑していた。そっちの方が菜月も気を楽にして食べられると思ったのだ。と、菜月がサラダにドレッシングをかけていた。いや本人はドレッシングだと思っているのだろう。


 しかし、螺月と柚蘭はそれは違う! と止めた。
 

 「へ?」何がとキョトンとしながらサラダを口に入れた菜月は次の瞬間、「あっつぃいいい!」大絶叫を上げる。菜月がサラダにかけたのはドレッシングではなく、スープにかける“ホットング”と呼ばれた液体。簡単に言えば、冷めたスープを一気に温めるための魔具。常識的にサラダにかけたりはしないのだが…。
 舌がヒリヒリすると菜月は水を一気飲みし、「何だよこれ」文句を垂れていた。

 ますます菜月が聖界で暮らしていけるかどうか、不安になった螺月と柚蘭だったが、更なる不安が襲ったのは食後のこと。
 

 食事を終えた菜月に風呂に入ってくるよう言ったのだが、弟は風呂で見事にやらかしてくれた。

 聖界に戻って数日経ってるのだから、風呂くらい大丈夫だろうと思っていたのだが、15分後に大きな物音と悲鳴と盛大な扉の開閉音が聞こえた。どうしたのだと二人が顔を上げた直後、「何かついてくるー!」寝巻きローブに着替えた菜月が助けを求めにやって来た。頭上を指差しながら何かついて来るんだけど、しかも風がずっと吹き付けてくるんだけど、あわあわと焦っている。

 それだけではない。


「ねえ! なんで俺の髪、金髪になったの?! ナチュラルゴールドだし! 聖界のシャンプーって髪染め効果あるのぉおお?!」
 
 
 物の見事に髪が金髪に染まっている末弟に、珈琲を飲んでいた螺月の手からカップが滑り落ちた。雑誌を読んでいた柚蘭も、思わずそれを落としてしまう。
 血相を変えている菜月は、まずこれをどうにかしてと自分の頭上にある筒状の道具を、まるでそれはトイレットペーパーの芯の様な筒状道具を指差しながら大パニックに陥っていた。

「なななな、菜月! 幾ら俺等が金髪だからっててめぇまでキンパにしなくたってッ、髪染めは不良の一歩だぞ! いや理由が俺等の姉弟になりてぇってなら、俺もまだ許せる。寧ろ嬉しい。
けどもしグレたいっていう理由でだったら、俺は止めるぞ! 兄貴として止めるぞ! 不良なんてろくでもねぇぞ!」

「……。螺月、落ち着きなさい」

 大パニックに陥っていたのは菜月だけではなかったということを、此処に記しておこう。

 
 
 * 


「えーっと菜月、浴室にはソープの種類が三つあるんだけど、このピンクのソープ使ったでしょ?
これは私達天使が翼を洗うために使用するものなの。別段体に使っても害はないんだけど、成分が違うから髪だと色…、変わっちゃったみたいね。でも違和感ないわ。金髪」
 
 
 それからこっちの筒状の魔具は“ウィングポット”って言って、体や髪を乾かしたりするんだけど…、あ、でも誰だって失敗はあるわ。菜月は人間界の生活が長かったこと、スッカリ失念していた私も悪かったんだもの。

 それに人間界と聖界じゃ日用品の扱いも違うもの。菜月が戸惑うのも仕方ないわ。

 
 さり気なくフォローしてみるが、菜月は重々しく溜息をついて自分の髪を抓んでいた。
 「黒に戻らないかな」落ち込んでいる菜月に、それでも似合うと言ってみるものの冗談じゃないと一蹴されてしまう。確かに本人にしてみれば、冗談ではない状況かもしれないが。
 しかし冗談ではない状況はまだある。菜月の生活慣れしていない面だ。魔具の知識はあるらしいが、日用品を全く使いこなせていない現状。
 これではおちおち留守番もさせられない。

「髪はいいとしてもね」

「よくない」

 不機嫌に言われ、柚蘭は苦笑い。




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あきゅろす。
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