006
「バッカネイリー! ちゃんと抱いとけって!」
「フロイライン。そんなことを言われても……そうだ、フロイラインも抱いてみるかね?」
「え? それは……いや、えーっと」
「構いませんよ。どうぞ」
ネイリーが風花に日和を渡す。
恐る恐る受け取った風花は日和を潰さないように抱いて、日和の顔を覗き込んだ。花咲く笑顔を向けてくる日和に可愛い! と目を輝かせている。片手で日和を抱いて、片手で日和の頬を人差し指で軽く突っつく。
風花の人差し指を両手で掴んで、日和が「ぶぅ」と言葉といえない言葉を発して笑った。
「かわいー! スッゲー可愛い!」
「良かったね。風花」
「菜月、あんたも抱いてみろって。可愛いよ」
「え? 俺? ……赤ちゃん、落としそうだしさ」
自分自身の力の無さを分かっている為、菜月は遠慮した。
もし、日和を抱いていて先程のように落とすような事態になったら。そう思うとゾッとする。菜月は遠慮した。かなり遠慮した。
みずほが「大丈夫ですよ」と微笑み、菜月に抱いてみるよう言う。
何度も「大丈夫」と言われ、菜月は風花から日和を受け取る。
意外と日和が軽いことに菜月は驚いた。日和が菜月を見上げて「ばぁでぅ」と意味不明な言葉を出すとカッターシャツの襟を掴んではしゃいだ。
さらに手を伸ばして、菜月の髪まで引っ張る始末。
「アイタタタタッ! コ、コラァ、ダメだって。落としちゃうッ、イタイ!」
「ぶぅ」
「ぶぅ……じゃなくて。アイテッ」
「気に入られてるじゃん。菜月」
「風花。楽しんでないでッ、イタッ、助けてって」
「はいはい。分かった分かった」
菜月の髪から手を放させ、風花は日和をまた自分の腕の中に戻す。
良かったと安堵している菜月に風花が笑いみずほに日和を返そうとするが、みずほは少しの間預かっていて欲しいと頼んでくる。
先程、ネイリーと行きたい場所があると言っていた。
だから日和を預かって欲しいのだろう。
「了解。日和の子守はあたし達がするから、行って来いよ」
「はい。あ、ネイリーさん、お時間は」
「勿論、大丈夫さ!」
フッと笑い犬歯を光らせるネイリーはみずほと共に部屋から出て行く。
2人は見送って顔を見合わせた。
「結局、どういう関係だったんだろうな。あいつ等」
「さあ。ただ言えるのは、2人とも会えて嬉しそうだったってことかな」
「だねぇ」
みずほがあんなに嬉しそうに笑い、ネイリーが懐かしんでいたのだ。
きっと自分達には分からないような親しい関係なのだろう。
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