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015



 
 執事と善からぬ関係を作っている。


 いつから? 問われると、月日を数えるのさえ面倒だ。気付けばこういう密接な関係になっていた、とでも返答するだろう。
 では何故、こういう関係を作った? 問われれば、自分はこう答える。


 こいつだ、と思ったから。


 八年前。
 自由がなく毎日が苛立ちで埋め尽くされていた時、能天気そうな執事がやって来た。
 その頃、何人もの執事が自分から去って行った。だから今度はどんな執事が来るのかと思っていたら、自分よりも少し年下の頼り無さそうな男の子。拍子抜けしたことを覚えている。


 でも何となく思った。こいつだ、と。

 自分の直感は妙なところで冴えていて、年月が経つに連れ本当にこいつだと思った。


 自分が部屋から逃亡したら、この執事は必死で探しに来てくれる。
 そして自分が稽古事に出たくないと言ったら、仕方無さそうに笑いながらも我儘に付き合ってくれた。例え自分が責を問われようとも、自分の我儘に付き合ってくれる。

 そんな執事はベテラン執事に、こっ酷く叱られヘコんでいた時があった。正直腹が立った。
 自分が叱ったわけでもないのに、何で他人の言葉でヘコんでいるのだ?と。
 他人の言葉なんて無視しておけばいいではないか。自分の言葉さえ信じておけばいいではないか。だって執事の主人は自分なのだから。
 
 月日が経ち、執事が自分に恋心を抱き始めた。
 当人は無自覚だったようだが、恋心に気付いていた。正直嬉しかったことを覚えている。執事の世界は主人一色なのだと優越感に浸った。
 さすがに自分の父に解雇を出され、黙ってそれに従った事には腹が立ったが。
 
 
 それでも今はこういう関係にまで発展した。

 それはとても嬉しくうれしく、自分は今、酷く満たされている。


 いばらは再び机に目を向ける。
 もしも、執事を完全に解雇されたら家族の元に戻るのだろうか。主人の自分を置いて帰ってしまうのだろうか。元々執事になったのは生活の為のようだし。
 「どっちを選ぶー?」天井に向かって独り言を放つ。返事はない。返ってくる筈も無い。そのくらい、いばらも分かっていた。

 けれど返事が欲しいと思った。
 柄にもないことを思ってしまい、自分自身に寒気がした。
 
 



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