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ズルイ執事。




 * *
 
 
 ―――何がキッカケかは分からない。

 でも一目見て直感が働いたことは覚えている。あーたしを理解できるのはこいつだ、って。

 
 
 令嬢というモノは物ばかりが手に入り、自由が手に入らないものだ。
 物心付いた頃から、いばらはそう思って仕方がなかった。
 明くる日も明くる日も稽古事、令嬢としての嗜み、闇夢鏡家の恥とならないように朝から晩まで躾。躾。躾。雁字搦めに生きているも同然。庶民が羨むような生活など此処にはない。寧ろ、庶民の生活の方がよっぽど羨ましい。
 
 
 そう思って生きてきたいばらにとって“令嬢”という身分は憎くかった。



「菜月。教育係のババアが煩いから、今日は此処で寝かせー……って、寝てる?」

 
 菜月の部屋に入ったいばらの目に飛び込んできたのは、暗い部屋と火の点ったランプ、開きっ放しの本を放置して眠りについている執事。
 扉を閉め、足音を立てないようにそっと歩み寄る。
 ベッドの上で本を読んでいたら眠ってしまったのだろう。頬を突っついても、軽く掴んで抓っても起きやしない。疲労が溜まっているのだろう。

 何の本を読んでいるのかと開きっ放しの本を手に取る。経済系の本を読んでいるらしい。


 ということは、執事として知っておくべきことを勉強していたのだろう。ご苦労なこった。


 本を閉じて、いばらはベッドに腰掛ける。ベッドが軋んでも執事は起きる気配がない。
 執事の身体を隅に寄せ、隣に寝転がった。やっぱり起きる気配は無い。深い眠りについているようだ。
 
 寝転がって暗い部屋を見渡す。
 視界は悪いがランプの明かりと、窓辺から差し込む月光が部屋の中をボンヤリ照らしてくれる為、何となく部屋の中が分かる。

 いばらの目が机の上で留まった。
 机の上には便箋セットが置いてある。

 あれは多分、家族宛に送る手紙だろう。
 そういえば八年も前から会っていないと聞いている。住み込みで働いている為、会う時間も無いのだといばらは思った。
 眠っている執事に視線を送る。執事は家族と主人、どっちを取るのだろうか。



「家族取ったら赦さないけどねぇー」



 盛大な独り言を呟き、いばらは欠伸を零す。






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あきゅろす。
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